金沢大学新学術創成研究機構の羽澤勝治准教授、理工研究域物質化学系の添田貴宏教授、ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)のウォング・リチャード教授らを中心とする分野横断的な研究グループは、名古屋大学、台湾・国立成功大学、米国南カリフォルニア大学等と連携し、生きた細胞内の「分子凝縮体」の微小環境を、これまでにない明るさで可視化できる蛍光プローブ「PyLUMI(パイルミ)」の開発に成功しました。
細胞の中では、タンパク質などの分子が膜を持たずに集まる「生体分子凝縮体(※1)」と呼ばれる構造体が形成され、遺伝子発現や細胞分裂などさまざまな生命活動を支えています。しかし、この凝縮体の内部がどのような環境にあるのかを、生きた細胞を壊さずに調べる手法はこれまで限られていました。本研究グループは、プローブ分子の構造を工夫することで、水中での発光効率を大幅に向上させた新しいプローブPyLUMI の開発に成功しました。
PyLUMI を用いると、わずかな量・短い露光時間でも鮮明な画像が得られるため、細胞へのダメージを抑えながら、細胞分裂の起点となる「中心体(※2)」の状態を高精度にイメージングできることを示しました。その結果、中心体の状態が細胞周期の進行に伴って変化することを世界で初めて明らかにしました。さらに、がん細胞で見られる中心体の異常な増加を模した細胞でも、大きさだけでは分からない異常な状態を検出できることを示しました。
これらの知見は将来、がんをはじめとする凝縮体の異常が関与する疾患の新たな診断指標や創薬支援技術に活用されることが期待されます。
本研究成果は、2026年7月16日(日本時間午後11時00分)、国際学術誌『Advanced Science』のオンライン版に掲載されました。

図:PyLUMIによる細胞内環境の可視化とがん細胞診断への応用
2つのピレン分子の会合発光(E)と単独発光(M)の強度比(E/M比)を画素ごとに色分けすることで、生体分子凝縮体内部の粘度・極性を可視化できる。正常な細胞(上)に比べ、がん化を模した細胞(下)ではE/M比が全体的に上昇しており、大きさだけでは分からない細胞の異常状態を光の色比から検出できる。
(K.Matumoto et al.,CC BY 4.0 に基づき改変)
【用語解説】
※1 生体分子凝縮体
タンパク質や核酸などの生体分子が、膜を持たずに液−液相分離(LLPS)と呼ばれる現象によって局所的に濃縮・集合してできる構造体のこと。核小体、ストレス顆粒、中心体などが代表例。
※2 中心体(セントロソーム)
細胞内で微小管の形成を統御する構造体で、細胞分裂時に紡錘体形成の起点となる。がん細胞ではしばしば数が異常に増加(中心体増幅)しており、染色体不安定性やがんの悪性化との関連が指摘されている。
ジャーナル名:Advanced Science
研究者情報:羽澤 勝治
添田 貴宏
ウォング・リチャード
関連情報