栗原 拓也さん 写真
Research NEWS

室温・光駆動で生み出したスピンの偏りをがん代謝MRI診断薬分子「ピルビン酸」へリレーすることに成功
~分子が数秒で組み上がる現象を利用し、次世代高感度MRIの実現へ前進~

理工研究域物質化学系、助教
栗原 拓也KURIHARA, Takuya

 金沢大学理工研究域物質化学系の栗原拓也助教、徳島大学大学院社会産業理工学研究部理工学域自然科学系物理科学分野の犬飼宗弘准教授、中村浩一教授、同大学大学院創成科学研究科博士後期課程3年の佐藤晴紀大学院生(研究当時)、大阪大学量子情報・量子生命研究センター(QIQB)、同大学ヒューマン・メタバース疾患研究拠点(PRIMe)、京都大学アイセムス(高等研究院 物質―細胞統合システム拠点:WPI-iCeMS)からなる研究チームは、寒剤を使わず室温でスピンの向きを揃えることができるトリプレットDNP(※1)に注目し、共結晶化(※2)を利用して、室温で生み出したスピンの偏りをピルビン酸へ受け渡す「偏極リレー(※3)」に成功しました。

 NMR(核磁気共鳴)(※4)やMRI(磁気共鳴イメージング)(※5)の感度は、核スピンの向きの揃い具合、すなわち偏極率に大きく依存します。この偏極率を高める技術として動的核偏極(DNP)(※6)が注目されていますが、従来法では極低温環境や高価な装置が必要となる場合が多く、広く利用する上で課題がありました。本研究では、室温・光駆動で動作するトリプレットDNPにより、仲介分子であるピコリンアミドにスピンの偏りを生み出しました。さらに、このピコリンアミドをピルビン酸とすばやく混合し、分子が数秒で組み上がる共結晶化を利用することで、スピンの偏りをピルビン酸へリレーすることに成功しました。本学栗原拓也助教は、共結晶の固体NMR測定の一部を担当し、本成果に貢献しました。

 本成果は、トリプレットDNPを直接適用しにくい分子にも偏極を届ける新しい手法を示すものです。今後、寒剤を使わない次世代の高感度NMR分析や、MRI診断薬分子(※7)開発への応用が期待されます。

 本研究成果は、2026年7月1日に英国王立化学会の学術誌『Chemical Science』オンライン版にAdvance Articleとして掲載されました。

 

図1:共結晶化を利用した偏極リレーの概念図
 室温トリプレットDNPにより、仲介分子であるピコリンアミド中にスピンの偏りを生み出し、目的分子であるピルビン酸とすばやく共結晶化させることで、スピンの偏りをピルビン酸へリレーする。

 

【用語解説】

※1 トリプレットDNP(Triplet-DNP:Triplet Dynamic Nuclear Polarization)
 DNP の一種で、光を当てた分子に一時的に生じる「三重項」と呼ばれる電子スピンの偏りを利用して、核スピンの向きを揃える方法です。通常のDNP とは異なり、極低温環境を使わずに室温で核スピンを偏極できる可能性があるため、寒剤を使わない高感度NMR・MRI 技術として期待されています。

※2 共結晶化
 複数種類の分子が、水素結合や– 相互作用などによって規則正しく組み上がった結晶を共結晶といいます。共結晶化とは、そのような共結晶が形成される過程を指します。本研究では、ピルビン酸とピコリンアミドがすばやく共結晶を形成する性質を利用して、スピンの偏りを目的分子へリレーしました。

※3 偏極リレー
 ある分子で生み出したスピンの偏りを、別の目的分子へ受け渡す方法です。本研究では、室温トリプレットDNP によりピコリンアミド中でスピンの偏りを生み出し、共結晶化を利用してその偏りをピルビン酸へリレーしました。

※4 NMR(核磁気共鳴、NMR:Nuclear Magnetic Resonance)
 原子核が持つ核スピンの性質を利用して、分子の構造や運動状態を調べる分析法です。磁場中の試料に電磁波を与えると、分子中の原子核からNMR 信号が得られます。この信号を解析することで、物質の構造や分子の動きを調べることができます。NMR 信号は一般に弱いため、感度を高める技術が重要です。

※5 MRI(磁気共鳴イメージング、MRI:Magnetic Resonance Imaging)
 NMR の原理を利用して、人体内部の水分子などから得られる信号を画像化する方法です。MRI では、場所によって磁場の強さを少しずつ変えることで、体のどの位置から信号が出ているかを区別します。けがや病気の診断、脳機能の研究などに広く用いられている重要な技術です。

※6 動的核偏極(DNP:Dynamic Nuclear Polarization)
 核スピンの向きが揃っているほど、NMR やMRI の信号は強くなります。DNP は、核スピンよりも向きが揃いやすい電子スピンの偏りを核スピンへ移すことで、信号を大きく増強する技術です。従来のDNP では、高い偏極率を得るために極低温環境や高価な装置が必要となる場合が多く、広く利用する上で課題がありました。

※7 MRI 診断薬分子
 生体内の環境や反応を調べるために用いられる分子です。代謝反応や酵素反応などに応じてNMR またはMRI 信号が変化するため、体内で起きている分子レベルの変化を調べる手がかりになります。本研究で用いたピルビン酸は、がん細胞の代謝状態を調べるための代表的な分子の一つです。

 

プレスリリースはこちら

ジャーナル名:Chemical Science

研究者情報:栗原 拓也

関連情報

金沢大学 理工学域 物質化学類

金沢大学 大学院 自然科学研究科

 

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