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金沢大学ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)/がん進展制御研究所の平尾敦教授、がん進展制御研究所のジン・ヨンウエイ博士研究員(研究当時)、小林昌彦助教、医薬保健研究域医学系の中田光俊教授、医薬保健研究域薬学系の荒川大准教授、ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)の新井敏教授らの研究グループは、東京大学医科学研究所、慶應義塾大学先端生命科学研究所、和歌山県立医科大学と共同で、悪性脳腫瘍の抗がん剤に対する耐性が「リソソーム」(※1)の働きによって引き起こされることを明らかにしました。また、アミノ酸のバランスを変えることでリソソームの機能が低下し、抗がん剤の効果が高まることも発見しました。
悪性脳腫瘍の一種である膠芽腫(グリオブラストーマ)は、手術、放射線治療、そして「テモゾロミド」(ここでは、TMZ と略します)という抗がん剤で治療するのが一般的です。しかし、多くの患者さんは治療後に再発し、がんがさらに悪化してしまいます。そのため、治療が効かなくなる仕組みを解明し、新たな治療法を開発することが急務となっています。
今回の研究では、細胞内の「リソソーム」を制御する重要な因子「TFE3」(※2)がリソソームを活性化し、治療が効かなくなる原因となることを発見しました。さらに、アミノ酸の一種である「リシン」が、リソソームの機能維持に不可欠な役割を果たしていることも明らかになりました。このリシンの働きを阻害する低分子化合物(※3)を投与することで、アミノ酸のバランスを崩し、リソソームの機能を低下させることを確認しました。この結果は、抗がん剤の治療効果を飛躍的に向上させる「抗がん剤ブースター療法」の確立に向けた重要な成果といえます。将来的に、この成果を医療に応用することで、悪性脳腫瘍の治療成績の改善に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2025年4月1日(英国時間)に英国科学誌『Nature Communications』に掲載されました。
図:脳腫瘍に対するテモゾロミドとホモアルギニンの併⽤効果
© 2025 Jing, et al., Nature Communications
【用語解説】
※1:リソソーム
細胞内小器官の一つであるリソソームは、酸性環境に保たれたその内部に、多くの種類の加水分解酵素を含み、細胞内外の物質の分解の場として働いている。それによって、細胞成分の品質保持や再利用が行われる。また、リソソームは、細胞内のアミノ酸の量や代謝シグナル、オートファジーを制御する中心的役割を担っている。
※2:TFE3
リソソームの生合成に関わる遺伝子群の発現を制御する MiT/TFE ファミリーと呼ばれるグループに属する転写因子の一つ。リソソームの生合成に関わる遺伝子の上流にある特定の DNA 配列(CLEAR 配列)を認識して結合し、その遺伝子の転写を制御する。アミノ酸などが豊富な環境では、細胞内の TFE3 は分解され、その機能が抑制される。
※3:低分子化合物
分子量が 1 万以下程度の小さな化合物。分子標的薬は、低分子化合物と高分子のモノクローナル抗体に大別される。低分子化合物の分子標的薬は、細胞膜上の受容体などへの結合や、細胞内に入り、細胞内の分子への結合を通し、それらの機能を制御する。
ジャーナル名:Nature Communications
研究者情報:平尾 敦