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金沢大学ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)/がん進展制御研究所の大島正伸教授、大島浩子准教授と、医薬保健研究域医学系消化管外科学の稲木紀幸教授、同大学院医薬保健学総合研究科博士課程4年の古谷裕一郎らの共同研究グループは、マウスおよびオルガノイドモデルを用いて、リガンド依存的 Wnt シグナル(※1)が胃がんの肝転移巣形成を促進する分子機構を、明らかにしました。
転移をともなう胃がん患者の5年生存率は約5%と低く、新規治療薬開発のためにも、胃がん転移機構の解明は重要な研究課題です。
胃がんでは、消化器がん発生に重要な Wnt シグナルを直接活性化する遺伝子変異の頻度が他のがんに比べて低く、外因性の Wnt リガンドによる「リガンド依存的 Wnt シグナル活性化」が重要と考えられています。しかし、Wnt リガンドがどの細胞に作用して、どのように転移巣形成に関与するのかについて、十分に理解されていませんでした。
本研究では、胃がんに関わる遺伝子変異を導入したマウスモデルを作製し、そこから樹立したオルガノイド(※2)を用いた解析により、胃がん細胞が産生する Wnt リガンドが、肝転移巣におけるがん関連線維芽細胞(CAF)(※3)の Wnt シグナルを活性化し、Wnt と TGFβ の相乗作用によって Has2(※4)発現が誘導され、微小環境へのヒアルロン酸(※5)沈着を高めることで、がん細胞の生存・増殖を支えて転移巣形成に作用することを示しました。
これらの知見は将来、胃がん転移に対する予防・治療薬開発研究に活用されることが期待されます。
本研究成果は、2026 年 2 月 14 日(英国時間)に英国科学誌『Nature Communications』のオンライン版に unedited version として掲載されました。

図1:KTP、WKTPオルガノイドを脾臓移植すると、WKTPのみ肝転移巣を形成した。

図2:リガンド依存的Wntシグナルによる胃がん肝転移機構。
【用語解説】
※1 リガンド依存的 Wnt シグナル
Wnt リガンドの刺激によって Wnt 経路が活性化する形態。大腸がんで認められる APC欠損などの遺伝子変異による“リガンド非依存的”活性化と対比される。
※2 オルガノイド
組織幹細胞やがん組織などから作製される三次元培養モデルで、組織の多様性などの性質を一部再現すると考えられる。
※3 CAF(cancer-associated fibroblasts、がん関連線維芽細胞)
腫瘍周囲の間質で活性化する線維芽細胞で、細胞外マトリクス産生や増殖因子の分泌などを通じて腫瘍微小環境を形づくる細胞群。
※4 Has2
ヒアルロン酸合成酵素(hyaluronan synthase)をコードする遺伝子の一つで、細胞外へのヒアルロン酸産生に関与します。
※5 ヒアルロン酸
細胞外マトリクス成分。組織の保水性や物理的性状、細胞シグナルに影響し、腫瘍微小環境にも関与します。
ジャーナル名:Nature Communications
関連情報
金沢大学 大学院 医薬保健学総合研究科・医薬保健学域 医学類