金沢大学医薬保健学総合研究科医学専攻博士課程4年のジェフン・ジュン、医薬保健研究域医学系の前島隆司准教授、津野祐輔講師、三枝理博教授と、北海道大学、東京大学の共同研究グループは、脳内の体内時計中枢において、夜間の神経活動を抑制する仕組みの中核を担うイオンチャネルを新たに特定しました。
特定されたのはGIRKチャネル(※1)と呼ばれるイオンチャネルで、活性化されると細胞内から細胞外へカリウムイオンを流出させ、神経細胞の活動を抑える働きをします。本研究により、GIRKチャネルが、体内時計中枢である視交叉上核において、昼と夜で異なった神経活動パターン作り出す中心的な役割を担うことが明らかになりました。
研究グループは、視交叉上核を構成する神経細胞のうち、プロキネティシン2(Prok2)(※2)というシグナル分子を放出する特定の細胞集団に着目して研究を進めました。その結果、Prok2産生神経細胞は昼間に活動が高く、夜間には低下するという日内リズムを持っており、その夜間の活動を抑制させる分子実体としてGIRKチャネルが働いていることを突き止めました。
さらに、遺伝子工学的手法を用いて、マウスのProk2産生神経細胞からGIRKチャネルを除去すると、神経活動の日内リズムが失われるだけでなく、マウスの一日の活動リズムが乱れることも示されました。特に、夜行性のマウスにおいて夜間に活動を開始する時刻が著しく遅れるという特徴は、ヒトの概日リズム睡眠・覚醒障害(※3)のうち、いわゆる朝寝坊型の睡眠相後退症候群の症状と類似しています。
本研究は、体内時計が昼と夜で活動を切り替える分子メカニズムの理解を大きく前進させる成果であるとともに、睡眠・覚醒障害や自律神経機能の異常など、体内時計の乱れに起因する疾患の新たな予防と治療法の開発につながることが期待されます。
本研究成果は,2026年7月31日に米国科学誌『The Journal of Neuroscience』のオンライン版に掲載されました。

図1: 夜間特異的なGIRK チャネルの活性化により、昼夜の電気的活動の差を生じる様子。
視交叉上核のProk2産生神経細胞にはGIRK1とGIRK3サブユニットで構成されるGIRKチャネルが発現する。GIRKチャネルが夜間特異的に活性化され、K+イオンを通す穴が開口する。K+イオンの流出に伴って膜電位が低くなることで神経細胞の興奮が抑えられる。GIRKチャネルはGタンパク質共役型受容体(GPCR)により活性化されることがよく知られてはいるが、夜間特異的に活性化されるメカニズムの解明は今後の課題である。
【用語解説】
※1 GIRK チャネル
Gタンパク質共役型内向き整流性カリウムチャネル(G protein-coupled Inwardly Rectifying K+ channel)の略称。神経細胞の膜に存在するイオンチャネルの一種で、Gタンパク質によって活性化されるとカリウムイオン(K+)を細胞外へ流出させ、神経細胞を活動しにくい状態にする。
※2 プロキネティシン2(Prokineticin2: Prok2)
細胞から分泌される81アミノ酸からなるペプチド(アミノ酸がつながった分子)の一種。さまざまな細胞で情報を伝えるシグナル分子として働く。脳の体内時計中枢である視交叉上核にも発現し、核内の神経細胞間の情報伝達を担うとともに、視交叉上核内で作り出された時間情報を他の脳領域へ伝える役割も担っている。
※3 概日リズム睡眠・覚醒障害
体内時計の機能異常によって、覚醒と睡眠の周期やタイミングが社会生活に適した時刻からずれてしまう睡眠・覚醒障害の総称。代表的なものに、航空移動によって心身の不調が生じる時差型(時差ぼけ)、交代勤務に伴って生じる交代勤務型、通常より早い時刻に眠くなり早朝に目覚める睡眠相前進型、睡眠や起床の時刻が大きく後ろへずれる睡眠相後退型、周期が24時間より長くなり就寝・起床時間が毎日少しずつ遅れていく非24時間型(自由継続型)などがある。
ジャーナル名:The Journal of Neuroscience
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