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金沢大学大学院新学術創成研究科ナノ生命科学専攻博士後期課程3年の鈴木大晴、金沢大学ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)/新学術創成研究機構の柴田幹大教授、京都大学大学院生命科学研究科/金沢大学ナノ生命科学研究所の炭竈享司特定講師、自然科学研究機構生理学研究所の村越秀治准教授らの共同研究グループは、記憶や学習の中心を担うタンパク質「カルシウム/カルモジュリン依存性キナーゼIIα(CaMKIIα)」が、シナプス後肥厚(PSD)(※1)に迫る高密度のもとで互いに数珠つなぎになることを、高速原子間力顕微鏡(高速AFM)(※2)を用いて明らかにしました。
CaMKIIαは、12個のサブユニットがリング状に集合した12量体として働く酵素です。脳の興奮性神経細胞にきわめて多く存在し、海馬では全タンパク質の約2%を占めます。とりわけ信号を受け取る領域であるPSDでは、1平方マイクロメートルあたり約800個の CaMKIIα がひしめいています。記憶の形成に関わる長期増強(LTP)が起こると、CaMKIIα はこのPSDにさらに集まります。しかし、その結合相手であるNMDA型グルタミン酸受容体の数は CaMKIIα の数をはるかに下回るため、受容体との結合だけではCaMKIIα がPSDに高密度で集積する仕組みを十分に説明できませんでした。
そこで本研究グループは、PSDに迫る高密度環境を再現した条件で高速AFM観察を行い、CaMKIIα 同士がキナーゼドメインを介して互いに接触し、2〜10個連なった鎖状のクラスターを作ることを発見しました。さらに、カルシウム/カルモジュリン(Ca2+/CaM)が結合すると、クラスターはより大きく成長し、その引き金がキナーゼドメインの活性部位を覆っていた制御セグメントが外れることにあると突き止めました。
一方、知的障害の患者で見つかったCaMKIIαの変異体(P212L)は、活性化していない基底状態でも、野生型より大きなクラスターを作りました。適切な大きさの鎖状クラスターを保つことが、シナプスでの信号伝達に重要である可能性を示す結果です。
これらの知見は、記憶や学習の分子メカニズムの理解を深めるとともに、神経発達症(NDDs)(※3)の発症機構の解明や新たな治療法の開発にも貢献すると期待されます。
本研究成果は、2026年9月11日14時(米国東部時間)に米国科学誌『Science Advances』のオンライン版に掲載されました。

図:高速AFM観察から提唱された神経回路の長期増強(LTP)時のCaMKIIα集積モデル
基底状態では、CaMKIIαはスパイン内を拡散するか、F-アクチンに結合し、数個からなる小さな鎖状クラスターを作っている(左)。LTPによってカルシウムが流入すると、Ca2+/CaMが結合したCaMKIIαがNMDA型グルタミン酸受容体のGluN2Bと結合し、この複合体を核として周囲のCaMKIIαが次々に取り込まれ、クラスターが拡大する(右)。
【用語解説】
※1 シナプス後肥厚(PSD)
神経細胞のシナプス後部にある、受容体や足場タンパク質が高い密度で集まった厚い層状の領域。信号を受け取り、シナプスの強さを調節する中心となる場所で、CaMKIIαもここに大量に存在する。
※2 高速原子間力顕微鏡(高速AFM)
柔らかい板バネの先に付いた細い針を使い、試料の表面形状を映し出す顕微鏡。針が試料の表面に触れながら、針と試料の水平方向の相対位置を少しずつ変え、試料の高さを計測する。試料の表面を高速(最速33フレーム/秒)に走査することで、溶液中で働くタンパク質の動きをそのまま動画として捉えることができる。生物学や材料科学などの幅広い分野で利用されている。
※3 神経発達症(NDDs)
知的障害や自閉スペクトラム症など、脳の発達の過程で生じる一群の疾患の総称。原因となる遺伝子変異が数多く報告されており、本研究で扱ったCaMKIIαのP212L変異もその一つである。
ジャーナル名:Science Advances
研究者情報:柴田 幹大
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