金沢大学理工研究域物質化学系の長谷川浩教授および総合技術部の南知晴技術専門職員、MOA 美術館の内田篤呉館長、立正大学地球環境科学部の川野良信教授、岩崎望名誉教授らの共同研究グループは、螺鈿(※1)に使用されるヤコウガイの貝殻に含まれる微量元素を分析し、生息海域の同定ができることを明らかにしました。本研究はMOA 美術館の内田篤呉館長を中心に実施され、同氏を筆頭著者とする論文として発表されました。
ヤコウガイは、インド洋および西部太平洋の熱帯サンゴ礁域に生息する大型の巻貝で、古くから螺鈿の主要な素材として利用されてきました。日本の螺鈿器は、国の有形文化財として国宝に 20 点、重要文化財に 64 点が指定されており、極めて高い文化的価値を有しています。本研究では、ヤコウガイ殻中の Sr/Ca、Mg/Ca、K/Ca といった元素比が、生息海域ごとに特異な値であり、産地同定が可能であることを示しました。ヤコウガイ殻の微量元素濃度は、生息していた海水中の微量元素濃度を反映するとともに、水温などの環境要因に影響されるためだと考えられます。
これらの知見は将来、螺鈿に用いられたヤコウガイやどのような経路で運ばれてきたのか、いわゆる「シェル・ロード」の解明という歴史的な研究で、東アジア・東南アジアにおける貿易史や文化交流の実態解明に活用されることが期待されます。
本研究成果は、2026 年 3 月 2 日に『Regional Studies in Marine Science』誌に掲載されました。

図1.分析に使用されたヤコウガイ、殻高24.5 cm。©MOA美術館。

図2.重文 蓮唐草螺鈿礼盤 鎌倉時代13世紀、MOA美術館蔵。©MOA美術館。

図3.ICP-MS、ICP-OESで分析されたヤコウガイ殻の微量元素を用いたクラスター分析による樹形図。
Reprinted from Regional Studies in Marine Science, Vol. 96, Uchida et al., “Trace elements in green turban shell (Turbo marmoratus) as indicators for provenance of mother-of-pearl”, Article No. 104890, Copyright (2026), with permission from Elsevier. (本図は Elsevier より許可を得て転載しています。)
【用語解説】
※1 螺鈿
螺鈿は文様に切り出した貝殻片を用いて漆工品や木工品などに装飾を施す工芸の一技法。広義には、その技法で製作された工芸品をも指す。
ジャーナル名:Regional Studies in Marine Science
研究者情報:長谷川 浩
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