HaKaSe+(ハカセプラス)選抜学生として、ペロブスカイト太陽電池の研究に取り組む、自然科学研究科物質化学専攻博士後期課程1年(取材当時)の中原悠吾さん。博士後期課程に進学した理由や研究のやりがい、将来への思いについてお聞きしました。(インタビュー動画は公式研究instagramでご覧いただけます。)
なぜ博士課程に進学されたのか、そのきっかけを教えてください。
実は、「研究が好きだから」ではないんです。学士課程の頃の成績は真ん中から少し下ぐらいで、このまま社会に出ても理系人材として通用しないと感じたのが一番の動機です。社会がこれからどう変化するのか分からない中で、どんな状況にも適応できる人材になるために、自分の専門性を軸にしながら、他分野の知見やコミュニケーション力も身に付けられる環境を求めて、博士後期課程への進学を決めました。
現在、どのような研究をされているのですか?
ペロブスカイト太陽電池の研究をしています。フィルムのように曲げたり折ったりでき、非常に軽量なため、住宅の窓や屋根、車の上など、従来のシリコン太陽電池では難しかった場所にも設置できるのが利点です。ただし、まだ実用化に至っておらず、その最大の壁は耐久性です。シリコン太陽電池が約30年もつのに対し、ペロブスカイト太陽電池は大気中の水分と反応して劣化しやすく、寿命は約1年です。
そこで研究室では、イオン液体の添加技術を用いて、大気安定性・耐熱性・耐光性を向上させる技術開発に取り組んでいます。大学のラボスケールでは、スピンコート法という高速回転の遠心力を利用した方法でペロブスカイト膜を作製します。しかし、この方法は大規模生産に不向きなため、工業段階ではロールツーロール法というフィルムを連続的に成膜、乾燥、巻き取りまで行う仕組みが用いられます。この装置ではスピンコート技術を適用することが難しいため、溶液を浸したバーを一定速度で掃引して製膜するバーコート法を導入しました。これによりスケーラビリティに優れ、スピンコート法と比べて低コストでの製造が可能になります。
エネルギー問題は、学生のうちも、社会人になっても、退職後も、ずっと続いていく長期的な課題です。自分自身が何かアプローチや解決策を示せる存在になりたいと考え、この研究室を選びました。

研究が楽しいと感じるのはどんな時ですか?
太陽電池研究では、光電変換効率が重要な指標です。照射された光をどれだけ電気に変換できたかを示す値ですが、これまでより良い結果が出たときは本当に嬉しいです。ただ、私の研究室では効率だけでなく、どれだけ長く性能を保てるかという耐久性を重視しています。そのため、経時変化を示すデバイスの光電変換効率が下がっていないかを確認する時はいつも緊張します。測定して性能が保持されていると分かると、大きな安堵感があります。
また、これまではグローブボックスという設備を用いた窒素雰囲気下で、ペロブスカイト太陽電池を作製するのが一般的でした。イオン液体の添加技術を用いることで、大気中でも高耐久性・長寿命の太陽電池を作製できることを初めて論文で発表できました。学士時代から積み上げてきた研究が形になり、長年の努力が報われた特別な瞬間でした。

HaKaSe+で役立った支援やプログラムを教えてください。
最も役に立ったのは海外渡航の旅費支援です。2025年の7月に、フランスのメスへ研究留学しました。渡航費や滞在費の経済的負担を感じることなく、のびのびと研究に励むことができました。現地では英語すら通じない場面が多く、フランス語を調べながら必死にコミュニケーションを取りました。とても大変でしたが、即座の対応力が鍛えられた、かけがえのない成長の機会になりました。
研究の息抜きはどのようにされていますか?
ひとりでドライブするのが好きです。北海道の最北端や最東端、九州の最西端と最南端など日本の果てを目指したり、四国を一周したりと、これまで訪れたことのない土地へ走ります。目的地で何かを楽しむというより、そこへたどり着くこと自体が目的です。ただ運転に集中していればいい時間は、私にとって何よりの息抜きです。最終的な利益を求めるわけではなく、道の途中にある面白いことや自分の力になることは、自分から掴みに行かないと得られない。研究とドライブには通じるものがある気がします。
将来の夢を聞かせてください。
私の研究室では、基礎研究の成果を社会実装につなげることを目指し、企業や他大学との共同研究が活発に行われています。ラボスケールの技術をどのように工業的に応用していくかという、幅広い視点で研究できるのが大きな魅力です。しかし実際には、ラボスケールの技術と工業段階の技術との間には大きなギャップがあります。例えば、使用する設備や溶液などの材料、コストなど、多くの点が異なり、基礎研究が成功したからといって、すぐに社会実装ができるわけではありません。これは日本に限らず、アカデミア全体の課題だと感じています。だからこそ将来は、その橋渡しができる理系人材になりたいと考えています。

最後に、博士後期課程への進学を考えている人へのメッセージをお願いします。
博士後期課程に進学するには、必ずしも優秀な学生である必要はないと私は思っています。というのも、私自身が決して優秀な学生だったわけではないからです。
学士課程の4年間は座学中心なので、勉強すれば成績が上がります。しかし研究室に所属してからは、自分で手を動かして実験を重ね、結果を出していく実践的な力が重要になります。座学があまり得意でないからといって、博士課程に向いていないわけではないので、博士進学の選択肢を最初から捨てないでほしいと伝えたいです。
※所属・学年・年次などはすべて取材当時のものです。ご了承ください。
(ライター・木戸 珠代)