Aspiration

光とAIで人間の“知”の最前線を広げる

理工研究域機械工学系
砂田 哲SUNADA,Satoshi

複雑さに魅せられて

理工研究域機械工学系の砂田哲教授が研究者を志した原点は、物理学への憧れにある。高校時代、自然界のさまざまな現象が数学によって説明されていく物理学の世界に魅了され、自らもその仕組みを解き明かしたいという思いから、物理学者になりたいと考えるようになった。学生時代には、複雑な現象を扱う “カオス”に惹かれ、さらに光の中に潜む複雑な現象を探究する研究室に所属した。そこで出会った“複雑さ”と“光”は、その後の研究人生を支える二つの軸となった。 「複雑さというのは、裏を返すと多様性という言い方もできます」と話す砂田先生は、人間社会や自然界がこれほど豊かなのは、その背後に複雑さがあるからだと考えている。さまざまなものが関わり合うことで、思いもよらない現象や新しい価値が生まれる。その複雑さを解き明かしたいという思いが、研究を続ける原動力になっている。博士号取得後は、民間の研究所で“光”と“情報”を結び付ける研究に携わり、その可能性を追究してきた。複雑な世界の中に潜む仕組みを探り、まだ誰も気づいていないものを明らかにしたい。その探究心が、現在の光科学とAIの研究へとつながっている。

光科学とAI

現在、砂田先生が取り組むのは、光科学とAIを融合した新しい情報処理技術の研究である。人間が光を目で捉えることで世界を認識するように、コンピュータにも光を利用した情報処理を行わせたいと考えている。近年、AIは急速に発展している一方、その高性能化に伴う電力消費の増大が課題となっている。そこで着目したのが、光が持つ“速さ”と“低いエネルギー消費”という特徴である。光を利用して高速に情報を処理できれば、これまで捉えることが難しかった速い現象を観測し、変化をリアルタイムに捉えることも可能になる。砂田先生はこれまで、生物の神経系に着想を得た光コンピュータや、高速な現象を可視化する技術など、速く処理することの先にある「これまで見えなかったものを見る」ための研究にも取り組んできている。 ここでAIが重要な役割を果たす。AIは大量の情報の中から特徴やパターンを見つけ出すことを得意とする。そこに光による高速な情報処理を組み合わせることで、人間だけでは捉えきれなかった現象から新たな情報を引き出し、発見へとつなげる。その積み重ねが、科学や技術の発展を支えることにもつながっていく。砂田先生にとって光による情報処理は、単に計算を速くするためだけの技術ではない。光を取り入れることでコンピュータの能力を拡張し、これまで観測が難しかった現象を捉え、新たな理解へと導くための道具なのである。

人間がまだ知らない世界へ

「人間の知の最前線を拡大することへ貢献したい」。そう語る砂田先生が目指しているのは、AIや光技術そのものの発展ではない。新しい発見を後押しする技術や情報処理の在り方を生み出し、人々がまだ知らない世界にたどり着くための手段を提供することである。「みんなの“知”を増やしていく。そのための方法を一つ与えていきたい」。そうした思いは、研究者としての姿勢にも表れている。「世の中を変えていくという思いを持ってやっています。やるからには面白いと言われるような研究をしていきたい」と話す。そして大学教員としては、「世界で戦っている姿を学生に見せたい」と語る。 研究の最前線に立ち続け、そしてその姿を次世代へ示すことも大切にしている。 「インパクトのあることをやっていきたい」。その言葉の背景にあるのは、複雑な世界に隠れた仕組みを知りたいという好奇心と、新たな発見によって人間の“知”を広げたいという思いだ。その探究心を原動力に、砂田先生は光とAIを通して、人間がまだ知らない世界への扉を開こうとしている。

 

(サイエンスライター・見寺 祐子、英語訳:Md Abul Kalam SIDDIKE)

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