広瀬 修さん 写真
Research NEWS

細胞レベルの情報を保ったまま、異なる組織データを自動で位置合わせ
空間トランスクリプトミクスの比較を支える新手法を開発

理工研究域生命理工学系、准教授
広瀬 修HIROSE, Osamu

—-

 金沢大学理工研究域生命理工学系の広瀬 修准教授と、ローマ・ラ・サピエンツァ大学コンピュータ科学科のEmanuele Rodolà教授の共同研究グループは、空間トランスクリプトミクスで得られる複雑な組織データを、細胞レベルの情報を保ったまま位置合わせする新手法「Domain Elastic Transform(DET)」を開発しました。

 空間トランスクリプトミクス(※1)では、各細胞が「どこにあり、どの遺伝子が働いているか」を同時に測定できます。しかし、切り方や個体差によって、組織切片の形や向きが異なるため、異なる試料をそのまま比較すると、形状の違いと遺伝子発現の違いが混在し、対応する場所同士を正しく評価することが困難でした。

 DETは、位置合わせ(※2)をコンピューター上で行う手法です。これは、対象となる組織を、細胞の位置情報と遺伝子発現情報を手掛かりとして、組織全体を滑らかに変形して対応する場所を重ね合わせます。これにより、細胞レベルの空間情報を保ちながら、異なる試料を共通の「地図」の上で比較できます。

 マウス脳のMERFISH(※3)データを人工的に大きく回転・移動させた90ケースで評価した結果、DETは比較した手法の中で、組織の重なり、近くにある細胞同士の関係の保存、遺伝子発現分布の一致という3つの評価指標で最も高い値を示しました。さらに、10万点を超えるStereo-seq(※4)によるマウス胚データにも適用し、発生に伴って組織形態が大きく変化する大規模データに対しても有効であることを確認しました。

 本手法により、複数の組織データを共通の座標上にそろえることで、組織に共通する構造と、発生や疾患、個体差による変化を見分けやすくできます。本成果は、生命科学データの比較・統合を支える基盤技術としての活用が期待されます。

 本研究成果は、2026年9月15日にIEEEの国際学術誌『IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence(TPAMI)』にオンライン掲載されました。

–

—

 

図1:DETの基本的な考え方
 空間トランスクリプトミクスでは、各細胞や測定点の位置に多数の遺伝子発現情報が付随します。DETは、このようなデータを「空間上の点に情報が付いた関数」として扱います。本図はその考え方を一般化した模式図で、実際には多数ある遺伝子情報を、説明のため1つの値(高さ)に単純化して示しています。青が基準となるデータ、赤が位置合わせするデータです。右に進むにつれて、位置と付随情報を手掛かりに赤いデータが滑らかに変形し、青いデータへ重なっていく様子を示します。
🄫 O. Hirose and E. Rodolà (2026) IEEE Trans. Pattern Anal. Mach. Intell. CC BY 4.0(論文 Fig. 4 より引用)

図2:マウス脳MERFISHデータの位置合わせ例
 各行は脳の前方・中央・後方の代表例です。左端は位置合わせ前の2つの切片(赤・青)、右側は各手法による位置合わせ後の重ね合わせを示します。赤と青が重なる様子から、各手法で組織の位置がどのようにそろったかを視覚的に確認できます。右端がDETの結果です。
🄫 O. Hirose and E. Rodolà (2026) IEEE Trans. Pattern Anal. Mach. Intell. CC BY 4.0(論文 Fig. 5より引用)

図3:発生段階の異なるマウス胚の位置合わせ例
 胎生14.5日のマウス胚を胎生15.5日のマウス胚に重ね合わせた例です。左から、全体の向きをそろえた入力、位置合わせ先、DETによる局所的な変形後、変形前の重ね合わせ、変形後の重ね合わせを示します。右端では、DETによる滑らかな変形が重ね合わせに与える効果を示しています。色は解剖学的な領域を表します。
🄫 O. Hirose and E. Rodolà (2026) IEEE Trans. Pattern Anal. Mach. Intell. CC BY 4.0(論文 Fig. 7 より引用)

 

【用語解説】

※1 空間トランスクリプトミクス
 組織の中のどこに細胞や測定点があり、それぞれの場所でどの遺伝子がどれだけ働いているかを同時に調べる技術。データでは、細胞や測定点の位置を「点」として表し、それぞれの点に多数の遺伝子情報が付いています。

※2 位置合わせ
 異なる時点や標本から得たデータを、対応する構造が重なるように共通の座標系へ変換する処理。

※3 MERFISH
 多数のRNA分子を画像上で識別し、細胞レベルの空間的な遺伝子発現を測定する手法の一つ。

※4 Stereo‑seq
 広い組織領域の遺伝子発現を高い空間解像度で計測できる空間トランスクリプトミクス技術の一つ。

 

プレスリリースはこちら

ジャーナル名:IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence(TPAMI)

研究者情報:広瀬 修

関連情報

金沢大学 理工学域 生命理工学類

金沢大学 大学院 自然科学研究科

 

FacebookPAGE TOP