Futurists

健康寿命100年の社会

がん進展制御研究所, 教授
城村 由和JOHMURA, Yoshikazu

「老化細胞」が引き起こす「老化」と「疾患」に挑む

 城村 由和先生が挑むのは、「老化細胞」の本質を分子レベルで解明し、老化や加齢性疾患に効果のある薬剤を開発する研究だ。

 私たちの細胞は、紫外線や酸化などのストレスによってダメージを受けると「老化細胞」へと変化する。老化細胞は加齢とともに体内に蓄積し、炎症を引き起こす物質を周囲に出し続ける。近年の研究で、この老化細胞が引き起こす慢性的な炎症が、がんや糖尿病、アルツハイマー病といった加齢性疾患の発症・進行に深く関わっていることが明らかになってきた。

「老化に伴う疾患の多くはこれまで治療不可能だと思われてきた。しかし、老化細胞が機能するメカニズムを明らかにすれば、これらの疾患を制御できるかもしれない。私の研究室では、このような加齢性疾患、さらには老化という現象自体の克服を目指して研究を続けている」と、城村先生は熱く語る。

目指すのは、老化細胞の「除去」と「若返り」

 老化細胞の制御に向けて、城村先生らは二つの視点から研究を進めている。

 一つ目は、老化細胞を体内から「除去」する研究だ。実験はマウスを用いて進めており、すでに、老化細胞を取り除くと老化速度が遅くなることを確認しているという。「老化細胞を除去するための薬剤の候補もいくつか見つかっている。これらの薬剤候補について、副作用がなければ5〜10年程度で人に臨床応用される可能性も十分にある」。

 二つ目は、老化細胞を元の状態に「若返らせる」研究だ。これが実現すれば、老化を遅らせるだけでなく、逆行させることすら可能になる。「今は、老化細胞の遺伝子を直接操作して『若返り現象』を引き起こすことに成功した段階。次は、人に投与できる薬剤を使ってこの現象を引き起こす方法を見つける予定だ」と、城村先生は意欲を見せる。「この若返りの研究については、私の研究室が全国でもトップを走っている。10〜20年程度での臨床応用を目指して、今後も精力的に研究を続けていく」。

健康寿命100年の社会を実現するために

 老化細胞の研究は着実に進んでいる。しかし、この分野が大きく飛躍するには「超えるべき壁」があるという。「現在の社会制度では、老化は病気とみなされていない。そのため、私たちの研究する薬剤を治験の対象にするのは難しい可能性もある。今後は、老化こそが病気の根源であるという認識を社会に広め、老化治療への理解を促していきたい」と、城村先生は力を込める。

 現在、日本人の平均寿命はおよそ85歳。しかし、健康に過ごせる期間を示す「健康寿命」はそれよりも10年ほど短い。老化細胞をコントロールできるようになれば、この健康寿命を100歳やそれ以上まで延ばすことも不可能ではないという。「理論的には、人の生物としての最大寿命である120歳程度まで健康寿命を延ばせるのではないかと考えている」と、城村先生は展望を語る。

 人々が、病気をせずに100歳以上まで生き生きと暮らせる社会をつくること。それは、介護や医療にかかるコストを削減して、社会全体の持続可能性を高めることにもつながる。個人と社会がいつまでも豊かに存在できる世界を目指して、城村先生の挑戦は続く。

(サイエンスライター・太田 真琴

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