児玉 昭雄さん 写真

捨てられる熱で、CO₂を捕まえる

 児玉 昭雄先生が挑むのは、排ガスや空気中のCO₂を回収・濃縮し、燃料などの資源として再利用する研究だ。その最終目標は、「ペットボトルと同じ感覚でCO₂をリサイクルする」究極の循環社会の実現にある。

 工場のボイラーやごみの焼却炉は、稼働するたびに大量の熱を出す。しかし、こうした小型熱源からの排熱は一般に100℃以下と低温であるため、使い道がなくそのまま捨てられることが多い。この排熱を地球温暖化問題の解決につなげようとしているのが児玉先生だ。「工場や焼却炉からは、熱と同時にCO₂も大量に排出される。そこで、これらの低温排熱を有効活用すべく、『自身の排熱を使って自身のCO₂を回収する』仕組みが実現できないかと考えた」と、児玉先生は語る。

 この発想を形にするために児玉先生が研究しているのが、「温度スイング吸着(TSA)」とよばれるプロセスだ。TSAでは、まずボイラーや焼却炉から出てきた排ガスを回収装置に通し、排ガス中のCO₂を吸着させる。十分な量のCO₂が吸着したら、回収装置を低温排熱で温め、CO₂を脱離させて回収する。この吸着と脱離を一定の周期で繰り返すことで、高濃度のCO₂を連続的に回収することができるという。

「TSAプロセス自体は昔から存在するが、私は吸着と脱離を繰り返す仕組みやそれぞれの工程を工夫したり、CO₂吸着剤への熱伝導を促進させたりすることで、回収後のCO₂濃度を95%まで高めることに成功した。現在、このCO₂回収装置を一般家庭などでも使用できるよう、装置の小型化を進めているところだ」と、児玉先生は意欲を見せる。

「CO₂を出さない焼却炉」を社会実装へ

 実は、児玉先生の元々の研究テーマは「CO₂」ではなく「水蒸気」であった。「最初は、低温排熱を活用して水蒸気を吸着・脱着させる除湿プロセスの開発に取り組んでいた。しかし、地球温暖化が叫ばれる中で自分も何か貢献できないかと考えたとき、研究中の除湿プロセスの原理をCO₂の回収に応用するアイデアを思いついた。それが、現在の研究のはじまりだ」。

 TSAプロセスを用いたCO₂回収技術は現在、「CO₂を排出しない焼却炉」というテーマで民間企業と共同研究を実施中である。すでに試験装置を用いた実証試験もはじまっているという。「研究室レベルの小さな装置だけでは、いつまでも世の中を納得させることはできない。ある程度大きな装置を実際の現場に据えて、動いている姿を人々に見せることが何より大事だ」と、児玉先生は力を込める。

CO₂を「ペットボトルのように」リサイクルする時代へ

 CO₂回収技術の実証が進む一方で、児玉先生はさらに大きな未来を描いている。それは、「CO₂のリサイクルが当たり前になる社会」の実現だ。「ペットボトルやアルミ缶のリサイクルは、今や常識だ。しかし、今後さらに地球温暖化が進めば、ガソリンや都市ガスなどの燃料についても、燃やして出たCO₂を回収するだけではなく燃料として再利用することが求められるだろう。その時に備えた技術開発が急務だ」と、児玉先生は熱く語る。

 こうした「究極のリサイクル社会」を実現するには、CO₂を幅広い場所から回収する技術が必要になる。そこで児玉先生が近年注目しているのが、CO₂排出源からだけではなく大気中からもCO₂を回収できるDAC(Direct Air Capture)とよばれる技術だ。特に装置の簡単化を意識した「ハニカムロータリー式DAC」の開発に力を入れており、既に空気中に0.04%程度しか存在しないCO₂を濃度90%以上に高めて回収できているという。ただし、回収したCO₂を燃料に変換する技術との効率的かつ合理的な接続が求められる。学内外の研究者と連携して「CO₂回収・変換システム」全体を俯瞰した研究開発を進めている。。

 CO₂のリサイクルが当たり前になった社会では、人々は暮らしの質を落とすことなく地球環境と共生できるようになる。それは、次の世代に健全な地球を引き継ぐことにもつながる。こうした未来の実現に向けて、児玉先生の挑戦は続く。

(サイエンスライター・太田 真琴

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