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Research NEWS

燃料電池触媒インクは「混ぜる前」が重要
―白金触媒の初期凝集状態がその後の分散と触媒利用性に影響―

理工研究域機械工学系、教授
辻口 拓也TSUJIGUCHI, Takuya

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 金沢大学理工研究域機械工学系のマディハ・ミスカン博士研究員、辻口拓也教授、東京大学大学院工学系研究科の田中暉久助教、長藤圭介教授、株式会社堀場製作所開発本部の櫻本啓二郎らの共同研究グループは、固体高分子形燃料電池(PEFC)(※1)の触媒インクにおいて、アイオノマーを加える前の白金担持カーボン(Pt/C)の凝集状態が、その後の分散挙動と白金触媒の電気化学的利用性に大きく影響することを明らかにしました。

 燃料電池の電極は、Pt/C触媒(※2)、アイオノマー(※3)、溶媒などからなる「触媒インク」を塗布・乾燥して作製されます。これまで、溶媒組成やアイオノマー量、混合・分散条件の最適化が広く研究されてきましたが、触媒インクを作製する前のPt/C触媒の凝集状態そのものが、その後のインク形成にどのような影響を与えるかは十分に明らかになっていませんでした。本研究では、Pt/C触媒をあらかじめ水中で異なる時間プレミキシングすることで、アイオノマー添加前の凝集状態を意図的に変化させ、その後の触媒インク形成過程を粒子径分布、レオロジー特性(※4)、SEM-EDX分析(※5)、電気化学測定により系統的に評価しました。その結果、適度なプレミキシングによって小さく比較的均一なPt/C凝集状態を形成すると、その後の分散が進みやすくなり、高い電気化学的表面積(ECSA)(※6)が得られることが分かりました。一方、過度なプレミキシングではPt/C触媒が再凝集し、その後長時間分散しても崩れにくい凝集構造が残り、Ptの電気化学的利用性が低下することが示されました。

 これらの知見は、燃料電池触媒インクの製造において、単に「どのように混ぜるか」だけでなく、「混ぜ始める前に触媒をどのような状態にしておくか」を制御することが重要であることを示しています。今後、高性能かつ再現性の高い燃料電池電極の製造プロセス設計への活用が期待されます。

 本研究成果は、2026年8月13日に国際学術誌『Chemical Engineering Journal』のオンライン版に掲載されました。

 

図1:プレミキシングによるPt/C 初期凝集状態の制御と、その後の触媒インク形成お よびPt の電気化学的利用性への影響(模式図)
適度なプレミキシングによりPt/C 触媒を小さく比較的均一な初期凝集状態とすることで、その後の分散が進みやすくなり、高いPt 利用性が得られることを示しています。🄫Kanazawa University

図2:プレミキシング条件および主混合時間によるPt の電気化学的表面積(ECSA)の 変化
短時間プレミキシング(SPM)と1 時間の主混合を組み合わせた条件で最大値を示しま した。
Reprinted from Chemical Engineering Journal, Miskan M. et al.,“Role of initial Pt/C aggregate state in PEFC catalyst ink microstructure formation”, © 2026, with permission from Elsevier. (本図は Elsevier より許可を得て転載しています。)

 

【用語解説】

※1 固体高分子形燃料電池(PEFC)
 水素と酸素の電気化学反応によって発電する燃料電池の一種。比較的低温で作動し、高い発電効率を持つことから、自動車や定置用電源などへの応用が進められている。

※2 Pt/C 触媒
 ナノサイズの白金(Pt)粒子をカーボン(C)担体上に担持(カーボン表面に白金ナノ粒子を微細に分散・固定)した触媒。PEFC の電極反応を促進するために広く用いられる。

※3 アイオノマー
 イオンを伝導する機能を持つ高分子材料。本研究の触媒インクでは、Pt/C 触媒の周囲に存在し、触媒層内のプロトン伝導などを担う。

※4 レオロジー特性
 液体やインクが「どのくらい流れやすいか」「どの程度構造を保とうとするか」を示す性質。本研究では、粘度や弾性的な性質を測定することで、触媒粒子同士のつながり方やインク内部の構造変化を評価した。

※5 SEM-EDX 分析
 走査型電子顕微鏡(SEM)で試料表面の微細構造を観察し、エネルギー分散型X 線分析(EDX)によって、どの元素がどの程度存在するかを調べる分析手法。本研究では、触媒層中のPt やF の元素組成を評価し、触媒やアイオノマーの状態を考察するために用いた。

※6 電気化学的表面積(ECSA)
 電気化学反応に実際に利用できる白金表面積を示す指標。値が大きいほど、より多くの白金表面が電気化学反応に利用可能であることを意味し、触媒利用効率の評価に用いられる。

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プレスリリースはこちら

ジャーナル名:Chemical Engineering Journal

研究者情報:辻口 拓也

関連情報

金沢大学 理工学域 機械工学類

金沢大学 大学院 自然科学研究科

 

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