HaKaSe+(ハカセプラス)選抜学生として、リザバー計算の理論研究に励む、自然科学研究科数物科学専攻博士後期課程2年(取材当時)の中村 優真さん。博士後期課程に進学した理由や研究のやりがいについてお聞きしました。(インタビュー動画は公式研究instagramでご覧いただけます。)
なぜ博士後期課程に進学されたのか、そのきっかけを教えてください。
博士前期課程で取り組んでいた研究がとても面白くて、「これからも研究を続けていきたい」と思ったのが一番の理由です。英語で議論したり論文を書いたりする力を伸ばしたいという思いもありました。金沢大学は留学生が多く、博士後期課程では特に英語に触れる機会が大幅に増えました。
研究はある意味「自分との闘い」でもあります。周囲と議論しながら進める部分もありますが、最後は自分で考え抜く作業になります。学士課程や修士課程で卒業した友人たちが社会人として働く中で、自分はまだ学生という立場の違いを感じることもありますが、それも研究者としての力を鍛える時間だと捉えて進学を決めました。

現在、どのような研究をされているのですか?
「リザバー計算」という分野で、理論の開発に取り組んでいます。近年、AI(人工知能)や機械学習がさまざまな分野で活用されていますが、これらの技術は非常に大きな電力を消費します。リザバー計算は、その問題を解決するための手法の一つとして提案されています。特徴的なのは、これまでコンピュータが担ってきた膨大な計算を、水の流れや空気の動きといった自然の物理現象で置き換えようという発想で、データを予測したり、高精度な人工知能を実現したりできます。もっとわかりやすくたとえると、水の流れで、ある会社の株価を計算したり、特定地点の天気がどうなるかを予測したりするイメージです。「物理現象」と「人工知能」という異色の組み合わせが生み出す新しい可能性に、この研究の面白さがあります。
研究はパソコンがあればどこでも進められますが、私はほぼ毎日研究室に通います。大きなホワイトボードに数式を書きながら考えるのが自分のスタイルで、疑問があればすぐに指導教員に相談できる環境も魅力です。

この研究に出会ったきっかけは何だったのですか?
学士課程3年次のとき、今の指導教員の野津裕史先生の研究を知ったことがきっかけです。水や空気の流れを利用したリザバー計算の研究に強く惹かれ、「ぜひ研究をさせてください」と先生に直接連絡しました。それまでは函館の大学で情報科学を専攻し、工学分野を学んでいましたが、今は数学的な基礎理論を中心とした研究に取り組んでいます。
HaKaSe+を通して身に付いたスキルや経験はありますか?
英語で話す力や文章を書く力は、博士前期課程の頃に比べてかなり伸びました。研究室ではディスカッションも英語で行うことが多く、自分が開発した理論を説明し、フィードバックをもらうやりとりの中で鍛えられました。それだけでなく、論理的に考える力や、研究を諦めずに最後までやり切る「心の体力」も身についたと感じています。また、研究費の支援も大変助かっています。論文投稿にはさまざまな過程を経ることで膨大なお金がかかることもあるので、支援があることで研究活動の幅が大きく広がっています。

最後に、将来の夢を聞かせてください。
将来はアカデミアに残って現在の研究を続け、数学や理論研究の面白さを伝えられる研究者・大学教員を目指したいと思っています。数学は難しい、苦手というイメージを持たれがちですが、その奥にはとても魅力的な世界があります。
私にとっての研究の醍醐味は、ゴールすら見えない状況に一人で立ち向かい、自分だけが知る結論へとたどり着くプロセスにあります。数学の研究は、生きている間に解明されないものも多く、世代を超えて継承されていく営みでもあります。だからこそ、最終的な結果よりも、どういうプロセスを経てきたかが大切。いろんな手法を試してみてうまくいかないことも、その結論を出すための大きな収穫と捉えています。
研究はよく山登りにたとえられます。頂上へのルートはたくさんあり、景色もそれぞれ違う。ただし現実の山と違い、どのルートが簡単かはわかりません。登っては詰まり、別ルートを開拓してはまた詰まる、その繰り返しです。それでも、研究を楽しもうというモチベーションの方が常に勝っています。

※所属・学年・年次などはすべて取材当時のものです。ご了承ください。
(ライター・木戸 珠代)