福田 真悟さん 写真
Futurists

新たな発見を支える「見る技術」

ナノ生命科学研究所, 特任助教
福田 真悟FUKUDA, Shingo

高速原子間力顕微鏡(高速AFM)が切り拓いた新たな生命科学

生き物の細胞の中で働く分子の姿を、もっと詳しく見たい。その思いを原動力に、高速AFMの性能向上に取り組んでいるのが、ナノ生命科学研究所の福田慎吾特任助教だ。生き物の細胞の中では、多種多様な小さい分子が働き、生命活動を支えている。その動きや振る舞いを詳しく観察することは、私たちの体の中で何が起きているのかを理解する手掛かりとなる。しかし、これまでの顕微鏡技術では、分子の動きを見ようとすれば構造は見えづらくなり、逆に構造を詳しく観察しようとすれば動きが見えなくなるという課題があった。その課題を大きく前進させたのが、高速AFMである。高速AFMは、分子の構造と動きを同時に観察し、その様子を動画として捉えることを可能にした。福田先生は、この“見る”技術をさらに進化させ、これまで見えなかった分子の姿を捉えようとしている。「水中でも真空中でも観察可能で、リアルタイムで生きたままの観察ができるのは、大革命でした。その開発の最前線を担ってきたのが金沢大学です」と福田先生は語る。高速AFMは、金沢大学ナノ生命科学研究所の安藤敏夫特任教授(金沢大学名誉教授、金沢大学特別功績教授)らの研究開発によって実用化され、生きた分子の動きを観察する新たな道を切り拓いた。福田先生も安藤先生の指導を受けながら高速AFMの研究に携わってきた。高速AFMによって可能になった観察を、さらに発展させること。それが福田先生の挑戦である。

 

 

分子の動きを捉える技術をさらに磨く

現在、金沢大学ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)では、高速AFMの技術開発とそれを活用した研究の両方が進められている。技術を“つくる”だけではなく“使う”ことで新たな問いが生まれ、その問いがさらに技術開発につながっていく。高速AFMによって、分子の構造と動きを同時に観察できるようになった今も、技術には課題が残されている。近年の改良によって画像を撮影する速度は大幅に向上した一方、どこまで細かな構造を見分けられるかという空間分解能には、まだまだ改良の余地が残されていると福田先生は語る。これまで福田先生は、試料への負荷を抑える探針の走査技術を確立し、より試料を壊さずに観察できるよう改良を重ねてきた。今後は、より細かな構造を捉えるため、空間分解能の向上にも取り組みたいと考えている。新たな観察が可能になると、新たな疑問が生まれる。その疑問に応えるために、また技術を磨く。高速AFMは、そうした探究の積み重ねによって進化を続けており、その進化を支えているのが、福田先生の研究である。

 

見えないものを見えるようにする、その先へ

福田先生が取り組む高速AFMの性能向上は、単に小さい分子を見えるようにするためのものではない。より高い空間分解能を実現し、これまで見分けられなかった細かな構造を捉えるための挑戦である。小さな分子を詳細に観察できるようになれば、分子がどのように働き、細胞の中で何が起きているのかを、これまで以上に理解できるようになるだろう。今はまだ観察できない現象を捉えられるようになれば、新たな研究や発見への道が開かれる。福田先生が取り組む技術開発は、そのための礎を築いている。

自らが開発した装置で、自分にしかできない計測を行い、まだ誰も見たことのない生命現象を捉える。その喜びを原動力に、福田先生は今日も新たな発見を可能にする技術を磨き続けている。

 

 

(サイエンスライター・楠木 啓主)

関連情報

ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)

 

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