金沢大学理工研究域物質化学系の山下哲准教授は、数物科学系の川口一朋准教授、ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)の古寺哲幸教授、東北大学大学院工学研究科の今泉璃城特任助教、和氣駿之准教授、徳島大学、理化学研究所、北海道大学などの研究グループと共同で、植物代謝(※1)に関わる不安定な酵素複合体「メタボロン(※2)」の部分構造とその機能を、世界で初めて原子レベルで解明しました。
細胞内の代謝では、複数の酵素が緩やかに集まり「メタボロン」と呼ばれる集合体を形成することが知られています。しかし、このメタボロンは非常に不安定で、その構造や代謝制御の仕組みはこれまで明らかになっていませんでした。
本研究グループは、植物のフラボノイド(※3)合成に関わるカルコン合成酵素(CHS)と、それを補助するタンパク質CHILとの複合体構造を解析しました。その結果、CHILがCHSの活性部位(※4)の構造を変化させ、不安定な反応を正確に制御していることを明らかにしました。このときCHILは、主役の酵素に寄り添いながら働く「動的な導き手」として機能していることが分かりました。さらに、このような一過的なタンパク質間相互作用により酵素の活性部位が調整され、代謝の正しい入口(ゲート)へ導かれる仕組みを、「GATE(Guided Active-site Tuning via transient Enzyme association)メカニズム」と名付けました。
本成果のうち、理工研究域物質化学系の山下准教授らはCHSとCHILの複合体構造をX線結晶構造解析によって決定し、数物科学系の川口准教授は分子動力学シミュレーションを担当、ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)の古寺教授らはCHSとCHILの相互作用解析を担当しました。
本成果は、生命に共通する代謝制御の原理となる可能性があり、合成生物学や代謝工学など幅広いバイオ分野への応用が期待されます。
本研究成果は2026年6月15日に科学誌『Nature Catalysis』に掲載されます。

図1:細胞内におけるメタボロン(酵素複合体)形成による効率的なフラボノイド合成の概要図
【用語解説】
※1 代謝
生命活動は、生体内で起こる多数の化学反応によって支えられている。これらの反応はある反応の生成物が次の反応の材料となるように連続した経路を形成しており、このような一連の反応の流れを代謝または代謝経路と呼ぶ。各反応は、それぞれ特定の酵素と呼ばれるタンパク質によって進められる。
※2 メタボロン
代謝経路を構成する複数の酵素が、細胞内でゆるく結合して形成すると考えられている酵素複合体。約40年前からその存在が提
唱されてきた。メタボロンを形成することで、不安定な中間体を効率よく次の酵素に受け渡したり、有害な中間体の拡散を防いだりする利点があると考えられている。一方で、その結合は弱く可逆的であるため、検出が難しく、実体の解明は困難とされてきた。
※3 フラボノイド
陸上植物がつくる化合物群で、C6–C3–C6 の基本構造を持つ。花の赤・青・紫色の多くはアントシアニンと呼ばれるフラボノイドに起因し、黄色の花色にもオーロンというフラボノイドの一種が関与する。フラボノイドは花色の発現を通じて植物の生殖に関わる他、病害虫や環境変化への応答、微生物との共生など、植物の生存に重要な役割を果たす。また、ヒトにおいても、健康機能を持つ成分として知られている。
※4 活性部位
酵素分子の表面や内部に存在し、特定の反応物質(基質)が結合して化学反応が起こる部位。
ジャーナル名:Nature Catalysis
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