福田 康二さん 写真
Research NEWS

肺がんの薬剤耐性メカニズムを解明!
~ARID1A変異が治療抵抗性の鍵~

がん進展制御研究所/ナノ生命科学研究所、助教
福田 康二FUKUDA, Koji

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 金沢大学がん進展制御研究所/ナノ生命科学研究所の福田康二助教、金沢大学附属病院呼吸器内科の南條成輝講師、腫瘍内科の竹内伸司講師、医薬保健研究域医学系/附属病院呼吸器内科の矢野聖二教授らの研究グループは、カリフォルニア大学(UCSF)との共同研究により、EGFR(※1)遺伝子変異肺がん(EGFR肺がん)が分子標的薬オシメルチニブに耐性を獲得する主な原因としてARID1A(※2)遺伝子変異を特定しました。さらに、WEE1(※3)を標的とした治療が、この耐性克服に有効であることを実証しました。

 肺がんは、日本人のがん死亡原因第1位で、年間約8万人が亡くなっています。日本人の非小細胞肺がんの30〜40%でEGFR遺伝子変異が検出され、これに対する治療薬であるオシメルチニブ(※4)が一時的に高い効果を示します。しかし、数ヶ月から1年以内に耐性が生じ、多くの患者さんで、がんが再び進行することが問題でした。特に、脳や髄膜への転移を伴う症例では治療が難しく、有効な対策が求められていました。

 本研究では、オシメルチニブに耐性となったがん細胞を詳細に解析し、ARID1A遺伝子の変異が耐性化の原因であること明らかにしました。さらに実際の患者さんのデータを調査した結果、ARID1A変異がある患者さんでは、オシメルチニブの治療効果が低下し、予後も不良となることが判明しました。また、新たな治療法を探索した結果、WEE1を標的とする薬(WEE1阻害薬)を使用することで、オシメルチニブ耐性となった細胞に再び治療効果を示すことを発見しました。

 これらの知見は将来、EGFR肺がん治療において、薬剤耐性を持つ患者さんでも再び治療効果が得られ、生存率向上への貢献が期待されます。

 本研究成果は、2025年6月13日(米国東部標準時間)に国際学術誌 『Journal of Thoracic Oncoloy』のオンライン版に掲載されました。

 

図1:EGFR肺がん細胞(PC9)をマウスの髄腔内に移植し、オシメルチニブで耐性を獲 得した細胞OR#3を回収。次世代シークエンサーで変異解析を行った結果、ARID1A遺 伝子の変異が最も高頻度で検出された。また、PC9親細胞のARID1A遺伝子をノックア ウト(ARID1A-KO)するとオシメルチニブに耐性化したことから、ARID1A遺伝子の発 現低下が耐性を誘導することが示唆された。
Adapted from Fukuda K, et al. J Thorac Oncol. 2025;20:1459–1474, used under the Creative Commons Attribution 4.0 International (CC BY 4.0) license.

図2:耐性細胞に対する746 種類の遺伝子破壊実験を行った結果、WEE1遺伝子の破壊 が最も強くがん細胞の生存を阻害した。WEE1は、ARID1A変異のある耐性細胞により 強い効果を示した。耐性細胞をマウス髄腔内に移植したモデルでの実験において、WEE1 阻害薬とオシメルチニブの併用治療により、腫瘍を抑制した。ARID1A変異細胞では、 DNA 修復機能が低下することでWEE1 阻害に対して脆弱となり、細胞死が強く促進さ れると考えられた。
Adapted from Fukuda K, et al. J Thorac Oncol. 2025;20:1459–1474, used under the Creative Commons Attribution 4.0 International (CC BY 4.0) license.

図3:EGFR 変異肺がん患者さん110例の臨床データを解析したところ、12例でARID1A 変異が検出された。ARID1A変異を有する患者さんでは、オシメルチニブ治療後の無増 悪生存期間 (PFS)と全生存期間 (OS)が有意に短く、予後不良であった。
Adapted from Fukuda K, et al. J Thorac Oncol. 2025;20:1459–1474, used under the Creative Commons Attribution 4.0 International (CC BY 4.0) license.

 

【用語解説】

※1 EGFR
 Epidermal Growth Factor Receptor(上皮成長因子受容体)の略称。細胞表面に存在し、細胞の増殖や分化を制御する。肺がんではEGFR の遺伝子が変異し、細胞な異常な増殖を引き起こすことでがん化することが知られている。

※2 ARID1A
 クロマチンの構造を調節し、細胞内の遺伝子発現を調整する役割を持つタンパク質。がんを抑える働きを持つことが知られており、この遺伝子が壊れるとがんが進行する原因になります。

※3 WEE1
 細胞周期を調節するタンパク質。細胞が分裂する時の「ブレーキ」役を果たし、DNAが損傷を受けたときに修復するための時間を生み出す役割を担っている。WEE1が正常に機能しない場合、損傷を受けたDNAが修復されずに分裂を続けることがあり、結果として細胞は死滅する。

※4 オシメルチニブ
 EGFR遺伝子変異を持つ肺がんに対する効果的な分子標的薬。高い抗腫瘍効果を持つが、長期間使用すると薬に対してがんが耐性を持つことが問題となっている。

 

プレスリリースはこちら

ジャーナル名:Journal of Thoracic Oncoloy

研究者情報:福田 康二
      南條 成輝
      竹内 伸司
      矢野 聖二

関連情報

金沢大学 がん進展制御研究所

金沢大学 ナノ生命科学研究所

金沢大学 大学院 医薬保健学総合研究科・医薬保健学域 医学類

金沢大学 医薬保健学域 医薬科学類

金沢大学附属病院

 

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