金沢大学附属病院脳神経外科の一ノ瀨惇也助教、金沢大学医薬保健研究域医学系統合神経生理学の三枝理博教授、 がん進展制御研究所遺伝子・染色体構築研究分野/ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)の平尾敦教授、 金沢大学医薬保健研究域医学系脳神経外科学の中田光俊教授らは、膠芽腫幹細胞を標的とした新規治療薬剤としてロメリジンを同定しました。
膠芽腫(※1)は、悪性脳腫瘍の中で最も発生頻度の高く、極めて治療が難しいがんです。手術、放射線治療、化学療法を組み合わせた治療が行われていますが、2 年生存率は50%以下にとどまり、依然として予後不良な疾患です。膠芽腫細胞の中には膠芽腫幹細胞(※2)と呼ばれる特殊な細胞が存在します。これは自己複製能力と多様な細胞への分化能力を持ち、再発や治療抵抗性の原因に関係すると考えられています。このため、膠芽腫幹細胞を効果的に死滅させることができれば、 膠芽腫を完治させることができる可能性があります。
本研究グループは、この膠芽腫幹細胞を治療標的とする薬剤として、 ドラッグ・リポジショニング(※3)の手法を用いて既存薬剤であるロメリジン(※4)を同定しました。ロメリジンは、片頭痛の予防薬として広く使用されている薬剤です。
本研究成果は、ロメリジンが膠芽腫幹細胞を標的とした新規治療薬として有望であることを示唆しており、膠芽腫患者の再発や進行を抑え、 長期予後を改善する可能性が期待されます。膠芽腫幹細胞を直接標的とした治療は未だ存在しないことから、ロメリジンを用いた新規治療が膠芽腫診療を大きく前進させることが期待されます。
本研究成果は、2026年3月24日午前9時(米国東海岸標準時間)に国際学術誌『JCI insight』のオンライン版に掲載されます。

【本研究のまとめ】
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1,301種類の既存薬物から、膠芽腫幹細胞株に対し強い抗腫瘍効果を有する薬剤として片頭痛予防薬であるロメリジンを抽出した。
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ロメリジンは、全膠芽腫細胞株に対しSTAT3を、膠芽腫幹細胞株に対してはさらにAKTとERKを抑制した。
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ロメリジンは膠芽腫幹細胞株優位にアポトーシスを誘導した。
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ロメリジンは膠芽腫幹細胞株優位に細胞増殖、浸潤、遊走を阻害した。
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ロメリジンは膠芽腫幹細胞株に対し腫瘍形成を抑制した。
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膠芽腫幹細胞株を脳内に移植した脳腫瘍マウスモデルにおいて、ロメリジン内服は腫瘍増大を抑制し、生存期間を延長した。
【用語解説】
※1 膠芽腫
膠芽腫は、脳に発生する最も悪性度の高い脳腫瘍の一つです。これは脳のグリア細胞から発生し、特に増殖が速く周囲の脳組織に浸潤する特徴があります。膠芽腫は治療が難しく、手術、放射線、化学療法などの治療が行われますが、予後は不良です。診断後の5年生存率は低く、多くの患者が2年以内に亡くなります。新しい治療法の開発が重要な課題とされています。
※2 膠芽腫幹細胞
膠芽腫の中に存在する、自己複製能力と多様な腫瘍細胞を生み出す能力を持つ特殊な細胞のことです。抗がん剤や放射線治療への抵抗性を有しているために、腫瘍の再発・進行の主な原因とされています。
※3 ドラッグ・リポジショニング
既存の薬剤や開発中、もしくは開発中止となった医薬品・化合物を活用し、当初想定していた疾患とは異なる別の疾患の治療薬として転用する開発手法のことです。一般的に新薬の開発には 10 年を超える期間と数百億円を超える莫大な費用がかかる上、その成功確率は低いとされています。ドラッグ・リポジショニングの手法を用い抽出された薬剤は、既に臨床使用される薬剤を使用することから人体での安全性・体内動態が十分に証明されており、安全性試験が既に終了しているために、開発に要する時間・経済的コストが大幅に削減可能です。
※4 ロメリジン
ロメリジンは片頭痛予防薬として日本で使用されている薬剤です。T型カルシウムチャネルを阻害することで脳血管の異常な興奮や収縮を抑制し、片頭痛の発作を軽減・予防することが知られています。
ジャーナル名:JCI insight
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