再生不良性貧血患者の白血球に頻発するヒト白血球抗原遺伝子ナンセンス突然変異の発見

掲載日:2021-9-27
研究

金沢大学の中尾眞二名誉教授(研究当時:金沢大学医薬保健研究域医学系教授)らの研究グループは,再生不良性貧血の原因の特定につながるヒト白血球抗原遺伝子のナンセンス突然変異を発見しました。

再生不良性貧血は,何らかの原因で血球の種となる造血幹細胞が枯渇し,白血球,赤血球,血小板などの血液細胞の全てが減少する病気で,国が指定している難病の一つです。再生不良性貧血を発症すると,発熱,貧血,出血などの症状が現れ,重症例では感染症や出血で命を落とすことがあります。このような重い症状を引き起こす再生不良性貧血ですが,そもそもどのような原因で発症するのかは明らかになっていません。今までの研究では,一部の再生不良性貧血患者さんの白血球においてヒト白血球抗原(HLA)(※1)の欠失が起こることが知られていましたが,その詳しい機序は分かっていませんでした。

本研究では,再生不良性貧血症例のHLA-AとHLA-Bという異なるタイプのHLA遺伝子において,共通するナンセンス突然変異(※2)がしばしばみられることを新たに発見し,この変異を持っている造血幹細胞ではHLAの発現が完全に欠失することを確認しました。また,この変異を迅速かつ高感度に検出することができる「ドロップレットデジタルPCR法」とよばれる方法を確立しました。この方法により,多数例の再生不良性貧血患者の血液細胞を調べたところ約1/3の症例にこの変異の存在が確認され,さらに,この変異によって欠失するHLA遺伝子のタイプが特定のものに限られていることが明らかになりました。

本研究によって,再生不良性貧血になりやすいHLA型を特定することができるようになり,その成果は,再生不良性貧血の原因を明らかにするきっかけになることが期待されます。また本研究で確立したドロップレットデジタルPCR法は,患者のHLA型がわからなくてもできる検査であることから,再生不良性貧血の診断に有用なツールとなることも期待されます。

本研究成果は,2021年6月に国際学術誌『Haematologica』に掲載されました。

 

図. 再生不良性貧血患者に認められたHLAクラスⅠ遺伝子の体細胞変異

次世代シークエンサーによる解析の結果,HLA-A又はHLA-B遺伝子に種々の体細胞変異が認められ,特にexon1, codon 19にナンセンス突然変異(Exon1変異)が集積していることが判明した(赤矢印)。

 

 

【用語解説】
※1  ヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antigen)
外から侵入する病原微生物などを自己と異なる非自己として認識し,区別する目印となるのが抗原で,ヒト白血球抗原は個体ごとに特有の免疫学的自己を決定づけている。白血球をはじめ全身の細胞は,赤血球の血液型よりもはるかに多様なHLAを発現している。

※2  ナンセンス突然変異
アミノ酸のコドンを終止コドンに変える変異のことで,切断された不完全な非機能性タンパク質産物をもたらす非常に影響の大きい変異である。

 

 

Haematologica

研究者情報:中尾 眞二

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