てんかん性突発波と自閉スペクトラム症児の脳神経ネットワーク,社会性の障害の関係を解析

掲載日:2021-9-6
研究

子どものこころの発達研究センターの廣澤徹特任助教と,医薬保健研究域医学系(精神行動科学)の菊知充教授の研究グループは,産学官連携のプロジェクトで開発した「幼児用脳磁計」(図1)を活用し,5歳から8歳の知的な遅れのない自閉スペクトラム症(※1)の子どもにおいて,軽度のてんかん性の脳の変化が,社会性の障害と関係する神経ネットワークの異常を軽減している可能性を報告しました。

てんかんは脳の神経細胞の一部が異常に活動することでけいれんなどの症状(てんかん発作)を引き起こす病気で,自閉スペクトラム症では起きやすいことが知られています。異常な脳の活動は脳波計や脳磁図で脳の電気的な活動を計測することで検出でき,「てんかん性突発波」と呼ばれる現象として観察されます。てんかんを合併しない自閉スペクトラム症でも,てんかん性突発波がよく観察されることが知られています。

これまでの研究で,てんかん発作に至らない程度の軽度のてんかん性突発波がある自閉スペクトラム症児は,脳波が完全に正常な自閉スペクトラム症児より社会的コミュニケーションの障害が軽度で,知能も高いことを明らかにしてきました。しかし一方で,より重度のてんかん性の脳の異常,すなわちてんかん発作を伴う自閉スペクトラム症児では,社会的コミュニケーションの障害が重く知能も低いことが知られており,我々は軽度のてんかん性突発波は社会的コミュニケーションの障害を定型発達に近づけるが,それが重度になると再び社会的コミュニケーションの障害が強くなっていく,逆U字型の関係があるのではないかと考えました。てんかんでは,局所的な情報処理の指標であるクラスター係数(※2)が高くなることが知られており,てんかん性の脳の異常をクラスター係数として指標化することで,その関係を検証できると考えました。

5歳から8歳の自閉スペクトラム症の子ども70名と典型的な発達の子ども19名を対象に,幼児用MEGを使って脳のネットワークを可視化しその特徴をグラフ理論の道具を使って解析した結果,てんかん性突発波がない自閉スペクトラム症児では定型発達児やてんかん性突発波のある自閉スペクトラム症児よりクラスター係数が低いことが分かりました。またてんかん性突発波のある自閉スペクトラム症児では,クラスター係数が高いほどその社会的コミュニケーションの障害が重いことが分かりました(図2)。我々の仮説がうまく検証できたことになります。

この研究結果は自閉スペクトラム症児の治療方針を決める際の指標にしたり(例えば抗てんかん薬を使用するかどうか),またMEGと機械学習を組み合わせた診断アルゴリズム開発への応用が期待されます。

本研究成果は,2021年8月20日にイギリスの科学誌『Brain communications』のオンライン版に掲載されました。

 

図1 幼児用脳磁計

 

図2 クラスター係数と社会的コミュニケーション障害の関係(解析結果)

 

 

 

【用語解説】

※1 自閉スペクトラム症
1)対人相互作用の障害,2)言語的コミュニケーションの障害,3)常同的・反復的行動様式などを示し,その病像は種類や重症度の点で非常に多彩である。その原因は感情や認知といった部分に関与する脳の異常だと考えられている。自閉症的な特性は,重度の知的障害を伴った自閉症から,知的機能の高い自閉症までスペクトラムを形成するという考えに基づく。

※2 クラスター係数
グラフ(ネットワークを頂点と,二つの頂点の間の結びつきを表す辺の集合として表現したもの)において任意の頂点 vi  vj,同じく vi と vk が共に辺で繋がっているような組み合わせの数を N3,vi,vj,vk が三角形で繋がっているような組み合わせの数を NΔ とした際,グラフのクラスター係数は C = 3NΔ / N3と定義されネットワークが局所に結合のクラスターを作る傾向の指標となる。

 

 

 

詳しくはこちら

Brain communications

研究者情報:廣澤 徹

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