母親の読み聞かせの影響力 子どもが集中するのに伴い脳内ネットワーク強度も向上

金沢大学子どものこころの発達研究センター(協力研究員)/日本学術振興会の長谷川千秋と,金沢大学子どものこころの発達研究センター(協力研究員)/ 福井大学医学部精神医学(客員准教授)/魚津神経サナトリウム(副院長)高橋哲也,金沢大学子どものこころの発達研究センターの池田尊司,金沢大学 医薬保健研究域医学 精神行動科学の菊知充教授,千葉工業大学との共同研究グループは,産学官連携のプロジェクトで開発した「幼児用脳磁計」(※1)を活用し,絵本を読み聞かせ中の子供の脳反応は,読み手の親密性(母親かそうでないか)によって異なることを明らかにしました。母親の読み聞かせ中には,他人の読み聞かせと比較して脳内ネットワークの強度が高まり,より効率的な脳活動状態になっていることが示されました。

読み聞かせが子どもの脳に与える影響を調べるために,4~10歳の子ども15名を対象に,自分の母親の読み聞かせを聞いている時と,他人の母親(検査者)の読み聞かせを聞いている時の脳活動を幼児用MEGで計測し,グラフ理論(※2)を用いて脳内ネットワークの特性を評価しました。結果,母親の読み聞かせ時には,脳内ネットワークの強度が高くなり,より効率的(スモールワールド性(※3))な働きになっていることが分かりました。また読み聞かせ中の子どもの表情解析を行った結果,母親の読み聞かせ時に子どもはより画面に集中し,ポジティブな表情を浮かべていたことが明らかになりました。

本研究では,母親の読み聞かせが子どもの脳内ネットワークに与える影響を明らかにしました。しかし,高い脳内ネットワークの強度とスモールワールド性が子どもの成長にどのような影響を与えるかはまだ未解明であり,母親だけでなく父親や他の養育者,さらには保育士や教員などの家族以外の親しい大人の読み聞かせの効果も検証していく必要があります。

本研究成果は2021年7月13日に科学雑誌『NeuroImage』のオンライン版に掲載されました。

 

 

図1.読み聞かせ中の脳磁図計測の様子

 

 

図2. 母親条件と他人条件の脳内ネットワークの比較

 

 

【用語解説】

※1  MEG(Magnetoencephalography: 脳磁図)
脳神経活動に伴って発生している微弱な磁場を捉えることで,脳の電気現象を明らかにする計測のこと。脳波は電気を通しにくい頭蓋骨外に置かれた電極で電気信号を計測するため,信号が減衰したりひずんだりして発生部位の推定が困難であるが, MEGでは磁場を用いるため信号の減衰やひずみがなく発生源をより精密に推定することが可能である。計測時には脳波のような電極装着の必要がなく,磁気シールドルーム内の,ヘルメット型のセンサー部のなかに頭をすっぽりと入れることで計測が可能である。また,脳より自然に発生している磁場を計測するため,計測そのものは生体に何ら影響を加えないため,人にやさしい計測機器であるといえる。乳幼児用にヘルメットサイズをカスタマイズしたものが世界に4台存在する(マッコーリー大学,金沢大学,北京語言大学,フィラテデルフィア子ども病院(乳児用))。

※2 グラフ理論を用いたネットワーク解析
ネットワークはいくつかの頂点とそれらを結ぶ枝で構成されており,その頂点と枝のつながり度合いを評価することでネットワーク構造を捉える解析手法をグラフ解析という。このグラフ解析は,交通,経済,ウェブデータ,脳科学研究などさまざまな分野で応用されている解析手法である。

※3 スモールワールド性
効率的なネットワークは機能分離と機能統合が上手く調和した “スモールワールド性”と呼ばれ,脳の発達や精神疾患と関連することが示唆されている。

 

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NeuroImage

研究者情報:長谷川 千秋

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