DNAがシャクトリムシダンス? 遺伝子が核に収納される第一歩の可視化に世界で初めて成功!

金沢大学大学院新学術創成研究科ナノ生命科学専攻博士前期課程2年/ナノ精密医学・理工学卓越大学院プログラム履修者の西出梧朗大学院生,ナノ生命科学研究所のキイシヤン・リン特任助教,ナノ生命科学研究所/新学術創成研究機構のリチャード・ウォング教授らの共同研究グループは,高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)(※1)により,ヒストンタンパク質(※2)の一種ヒストンH2AがDNAにより包まれる過程を,ナノスケールかつリアルタイムで可視化することに世界で初めて成功しました。

ヒストンH2A は,ヌクレオソーム(※3)を形成する4種類のヒストンタンパク質の一つで,核内で遺伝情報であるゲノムDNAを凝集させるために重要なはたらきをしています。ヒストンH2A は,アセチル化やメチル化などのヒストン修飾(※4)を受け,DNAの凝集を緩めたり,締めたりすることで,さまざまな遺伝子発現制御に関わっていることが知られています。この働きは膨大な遺伝情報を保持するために重要ですが,ヒストンタンパク質がDNAを包み込むプロセスの詳細についてリアルタイムで実際に観察した例はこれまでにありませんでした。

本研究では,HS-AFM を用いて,ヒストンH2A のドメイン構造である球状コアと構造を取らない無秩序なテイルを観察しました。さらに,ヒストンH2A とDNAの相互作用を観察したところ,DNAがシャクトリムシ様の動きをしてヒストンに巻き付く様子を捉えることに成功しました。また,HS-AFM によるDNA-H2A凝集体の観察を行い,DNAとH2Aの間には塩濃度を操作することによって可逆的に変化する液-液相分離(LLPS)(※5)環境が形成されていることを見いだしました。これらの研究成果により,HS-AFM は,遺伝子発現のオン・オフに関わる重要なDNA-ヒストン結合を制御する因子を見いだすのに適切なツールであることが示されました。加えて,ナノスケールで迅速かつ自発的なLLPS形成を捕捉できることから,タンパク質およびタンパク質-核酸の凝集研究をも実行可能なツールであることが明らかになりました。将来的にはヌクレオソームおよびクロマチン形成過程も,HS-AFM を用いた視覚化が可能になると期待されます。

本研究成果は,2021 年 4 月 14 日(米国東海岸標準時間)に米国科学誌『The Journal of Physical Chemistry Letters』のオンライン版に掲載されました。

 

DNAシャクトリムシ様ダイナミクスによってヒストンH2AがDNAに包み込まれる様子

 

図1. 

ヒストンH2AがDNAのシャクトリムシ様ダイナミクスによって包み込まれる一連のプロセスを,世界で初めて直接観察することに成功した。拡大画像シーケンスはDNAシャクトリムシ様ダイナミクスによってヒストンH2AがDNAに包み込まれる様子を示す。

 

図2.

HS-AFM によるDNA-H2A凝集体の観察では,DNAとH2A間の塩濃度を操作することによって可逆的に変化する液-液相分離(LLPS)環境が形成されていることが明らかとなった。拡大画像シーケンスは,塩濃度を上昇させるとDNA-H2A凝集体が拡散し,その後塩濃度を減少させるとDNA-H2A凝集体が再び現れることを示している。

 

 

【用語解説】

※1 高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)
探針と試料の間に働く原子間力を基に分子の形状をナノメートル(10-9 m)程度の高い空間分解能で可視化する顕微鏡。高速AFMは溶液中で動いているタンパク質などの生体分子をナノメートルの空間分解能とサブ秒という時間分解能で観察することが可能である。

※2 ヒストンタンパク質(ヒストン)
ヌクレオソームを構成する塩基性のタンパク質。ヌクレオソームには4種類のヒストン(H2A,H2B,H3,H4)が各二分子ずつ含まれる。

※3 ヌクレオソーム
真核生物に共通するクロマチンの最小構成単位。ヒストンH2A-H2B二量体2つとH3-H4二量体2つからなる複合体に約147bpのDNAが巻き付いた安定した構造体。

※4 ヒストン修飾
ヒストンのN末端領域(テール)に見られるアセチル化,メチル化,リン酸化,ユビキチン化などの化学修飾。クロマチンの高次構造を変化させ,転写を制御し,発生,分化,細胞運命の維持において重要な役割を担っている。

※5 液-液相分離(LLPS)
二つの液体が混ざらずに互いに排除しあい,二相に分離する状態。細胞内にはタンパク質や核酸が局所的に凝集した液滴が多数存在し,これらは液-液相分離(LLPS)環境にある。

 

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