子ども時代の情緒的虐待が,成人後のネガティブな情報に対する注意の向け方に大きな影響を与えることを発見-生物学的メカニズムの一端も明らかに-

掲載日:2021-3-18
研究

金沢大学国際基幹教育院(臨床認知科学研究室)の松井三枝教授は,国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)精神保健研究所の研究グループ,NCNP神経研究所との共同研究で,子ども時代の情緒的虐待(暴言などの心理的虐待)が成人後の注意バイアス変動性(※1)に関連することを明らかにしました。さらに,そのメカニズムに炎症やBDNF遺伝子(※2)が関与する可能性を見いだしました。

今回の研究は,幼少期に情緒的虐待を経験すると,成人した後も否定的な情報に対する注意の向け方に揺らぎが生じやすいことについて,その生物学的なメカニズムも含めて明らかにした点で,幼少期被虐待体験がもたらしうる長期的な心理的・身体的影響の解明に寄与し,適切な支援や治療につながるものと考えられます。

この研究成果は,2021年2月12日(日本時間)に国際精神医学誌『Translational Psychiatry』にオンライン掲載されました。

 

【用語解説】

※1 注意バイアス変動性
注意バイアスは,感情的に中立な情報(単語の例:「印鑑」)に比べ,ネガティブな情報(例:「爆発」)に選択的に注意を向けるという偏り。注意バイアス変動性は,ネガティブな情報に対して,ある時は過度に注意を向け,ある時は過度に注意を逸らすという,個人内での揺らぎを反映する指標。PTSD(※3)患者では注意バイアス変動が大きいことが示されている。

※2 BDNF遺伝子
脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor: BDNF)は,神経細胞の成長や生存,シナプスの機能,神経伝達などを調節するタンパク質。BDNF遺伝子は,BDNFをコードする遺伝子。BDNF遺伝子のVal66Met多型[66番アミノ酸がVal(バリン)からMet(メチオニン)に置き換わる多型]は,細胞からのBDNF分泌低下につながる機能多型であり,種々の精神疾患や記憶・学習・注意機能との関連が報告されている。

※3 PTSD
心的外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder: PTSD)は,生命の危険を感じるような出来事を体験・目撃する,重症を負う,犯罪被害に遭う,などの強い恐怖を伴う体験がこころの傷(=トラウマ)となり,時間がたっても強いストレスや恐怖を感じる精神疾患

 

詳しくはこちら

Translational Psychiatry

研究者情報:松井 三枝

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