カルボン酸含有医薬品の副作用を引き起こす原因代謝物の生成に関与する酵素の同定

掲載日:2021-2-15
研究

金沢大学医薬保健研究域薬学系の深見達基准教授とナノ生命科学研究所の中島美紀教授らの研究グループは,カルボン酸を含有する医薬品を使用する際に引き起こされる副作用について,その主原因となり得る代謝物の生成に関与する酵素を同定しました。

解熱鎮痛作用を目的として広く使用されている非ステロイド性抗炎症薬の多くは化学構造内にカルボン酸を有しています。しかしながら,カルボン酸を含有する医薬品は,肝機能障害などの副作用を引き起こすことがときどきあります。これまでの研究では,薬を服用後,体内にて生成する代謝物が副作用発現に関与することが示唆されており,グルクロン酸抱合体とよばれる代謝物の生成が原因ではないかと考えられてきました。

本研究では,ACSL1という肝臓内の酵素により生成するCoA抱合体(※1)と呼ばれる代謝物の方がグルクロン酸抱合体より生成量は少ないが,生体内のタンパク質と結合する能力が有意に高いことを明らかにしました。その結果として,CoA抱合体との結合により生体内のタンパク質の機能が妨げられ,肝機能障害などの副作用発現が引き起こされる可能性が示されました。

本研究の成果は,広く使用されている解熱鎮痛薬の副作用発現メカニズムについて,新たな見解を提示するものです。カルボン酸含有医薬品の多くはACSL1によりCoA抱合体が生成されるという観点から,今後は,臨床の現場で使用されている薬の副作用の個人差などの解明に活用され,将来的には副作用が起こりにくい医薬品の開発につながることが期待されます。

本研究成果は,2020年10月27日に国際学術誌『Biochemical Pharmacology』のオンライン版に掲載されました。

 

肝臓における非ステロイド性抗炎症薬のCoA抱合反応におけるASCL1の関与

本研究において,カルボン酸を有する非ステロイド性抗炎症薬の中でもプロピオン酸系非ステロイド性抗炎症薬に分類される化合物が選択的にACSL1によりCoA抱合を受け,細胞内のタンパク質に結合することが明らかになった。

 

【用語解説】

※1  CoA抱合体
カルボン酸含有医薬品がコエンザイムAと結合した代謝物。ヒトにはCoA抱合体を生成する酵素(ACS酵素群)が26種類も存在しているが,その中でもACSL1という酵素が肝臓に最も高く発現し,カルボン酸含有医薬品のCoA抱合反応を触媒することが本研究にて明らかにされた。

 

 

Biochemical Pharmacology

研究者情報:深見 達基

研究者情報:中島 美紀

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