国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟とジオスペース探査衛星「あらせ」での観測により,「電子の豪雨」現象の原因を解明

掲載日:2020-9-18
研究

金沢大学総合メディア基盤センターの笠原禎也教授および理工研究域電子情報通信学系の尾﨑光紀准教授と,国立極地研究所,早稲田大学,宇宙航空研究開発機構(JAXA),茨城工業高等専門学校,名古屋大学,京都大学,電気通信大学などの共同研究グループは,国際宇宙ステーション(ISS)に搭載された複数の観測装置とジオスペース探査衛星「あらせ」(※)との同時観測データから,ISSで観測される「電子の豪雨」現象の原因がプラズマ波動であることを明らかにしました。

高度400キロメートルの比較的低い軌道を周回するISSが高磁気緯度地域を通過する際に遭遇することのある,数分間にわたって高エネルギー電子が降り注ぐ「電子の豪雨」と呼ぶべき相対的電子降下現象(REP現象)は,船外活動中の宇宙飛行士に及ぼす被ばく影響が懸念されています。これまでに本研究グループは,ISSの「きぼう」日本実験棟船外実験プラットフォームに搭載されている高エネルギー電子・ガンマ線望遠鏡(CALET),全天X線監視装置(MAXI),宇宙環境計測ミッション装置(SEDA-AP)などの放射線計測装置のデータを用いて, REP現象を発見するとともに,REP現象による被ばく線量の測定に成功しています。宇宙飛行士の安全な活動のためには,この突発的な放射線量の増加現象を事前に予測するための「宇宙天気予報」の実現が期待されるとともに,その発生機構の解明が求められてきました。

本研究では, ISSと「あらせ」が同じ磁力線上を通過した機会のうち,ISSでREP現象を観測した事例を選び,ISSでの高エネルギー電子の測定結果と「あらせ」のプラズマ波動(EMIC波動)データの比較・解析を行いました。その結果,REP現象発生の時間的分布から推測されたとおり,EMIC波動が原因となってISSでのREP現象が発生していた事例が確認されました。さらに,電子のつくるプラズマ波動(ホイッスラー波動)が原因となって,EMIC波動によるものとは異なる時間変動のパターンを示すREP現象が発生していることも新たに明らかになりました。これは,CALETとMAXIの本来の研究分野を大きく超えた連携観測によって解明することができた成果といえます。

本研究成果は,ISSでの宇宙飛行士の船外活動のための宇宙天気予報に加え,高度36,000キロメートルの静止軌道を周回する人工衛星を守るための放射線帯の宇宙天気予報の精度向上にもつながることが期待されます。

本研究成果は,2020年8月14日に国際科学誌『Journal of Geophysical Research – Space Physics』に掲載されました。

 

 

図1. 左:ジオスペース探査衛星「あらせ」((c) ERG science team)。 右: 国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟船外実験プラットフォームに取り付けられたCALET,SEDA-AP,MAXI((c) JAXA/NASA)。

 

 

図2. 「あらせ」のプラズマ波動観測データと,ISSでのREP現象の観測データ。上から順に,EMIC波動によるREP現象,コーラス波動によるREP現象,静電ホイッスラー波動によるREP現象を示す。

 


【用語解説】
※  ジオスペース探査衛星「あらせ」
地球の放射線帯を観測するために2016年12月に打ち上げられた探査衛星。太陽風の擾乱によって発生する宇宙嵐に伴う粒子の加速過程や,宇宙嵐発達の仕組みを明らかにするため,放射線帯中心部で電子が高エネルギーになる過程を観測する。

 

 

 

 

詳しくはこちら

Journal of Geophysical Research – Space Physics

研究者情報:笠原 禎也

研究者情報:尾﨑 光紀

 

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