薬物代謝における補酵素UDP-グルクロン酸を小胞体に取り込むトランスポーターを同定

掲載日:2020-6-10
研究

金沢大学医薬保健研究域薬学系の荒川大助教とナノ生命科学研究所の中島美紀教授らの研究グループは,肝臓内の薬物代謝において,SLC35B1と呼ばれるタンパク質が,UDP-グルクロン酸(※1)を小胞体(※2)に取り込む際のトランスポーターとしての役割を果たしていることを明らかにしました。

肝臓の重要な機能の1つは,薬や毒物など,もともと体内にはなかった物質や人体にとって有害な物質を無毒化したり,あるいは排泄によって体外に放出するために水溶性の物質に変換したりすることです。このような肝臓内で起こる化学反応は薬物代謝と呼ばれており,そのプロセスで重要な役割を果たしているグルクロン酸抱合反応においては,UDP-グルクロン酸と呼ばれる補酵素が細胞の小胞体膜を透過することが必要です。これまでにUDP-グルクロン酸を輸送するタンパク質(トランスポーター)がいくつか報告されていましたが,どのタンパク質がUDP-グルクロン酸の小胞体内への取り込みに実質的に働いているのか,詳細は分かっていませんでした。

本研究では,肝臓の解毒機能において,SLC35B1と呼ばれるタンパク質がUDP-グルクロン酸の小胞体膜透過を調節するトランスポーターの役割を果たしていることを突き止めました。その結果,SLC35B1が薬毒物に対する解毒機能を調節していることを明らかにしました。

本研究の成果は,SLC35B1発現量の個人差が,薬物の副作用発現リスクの個人差につながることを示唆するものです。今後は,それぞれの患者のタイプに合った最適な治療を行う個別化医療の発展につながることが期待されます。

本研究成果は,2020年3月14日(中央ヨーロッパ時間)に国際学術誌『Biochemical Pharmacology』のオンライン版に掲載されました。

図1. グルクロン酸の小胞体取り込みにおけるSLC35B1の役割

SLC35B1はUDP-グルクロン酸を小胞体に取り込むトランスポーターとして重要な役割を果たす。

 

【用語解説】

※1 UDP-グルクロン酸
 グルクロン酸抱合酵素が薬物を代謝する際に用いられる生体内物質。細胞内で合成される。薬物にグルクロン酸が付加されると,一般に無毒化される。

※2 小胞体
 細胞内に存在し,タンパク質を合成する細胞内小器官。タンパク合成のほか,薬毒物の代謝(無毒化)を行う。

 

 

 

Biochemical Pharmacology

研究者情報:荒川 大         

研究者情報:中島 美紀 

 

 

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