がんの起源となるヒト胃組織幹細胞の特定に世界で初めて成功!

金沢大学がん進展制御研究所およびA*STAR研究所医学生物学研究所(IMB)のNick Barker博士(金沢大学がん進展制御研究所リサーチプロフェッサー(招へい型))が率いるIMB,金沢大学,シンガポールのゲノム研究所,国立シンガポール大学およびオランダのマーストリヒト大学などの国際共同研究チームは,傷付いた胃の再生を担う組織幹細胞(※1)にアクアポリン5(AQP5)遺伝子(※2)が発現していることを突き止め,これにより世界で初めてヒトの胃組織幹細胞を特定することに成功しました。また,それらの正常胃組織幹細胞に遺伝子変異が蓄積することで,胃がん幹細胞(※3)に変化することを明らかにしました。

日本を含むアジアにおいて罹患率が高い胃がんは,転移・再発した場合の生存率が低い状況です。悪性化した胃がんに対して有効な治療薬が開発されていない理由として,がんの起源となりうる組織幹細胞が特定されておらず,発がんメカニズムの研究が遅れていたことが挙げられます。これまで,マウスを用いた実験により,胃に存在する組織幹細胞ではLgr5遺伝子(※4)が発現することが知られていましたが,ヒトにおける胃組織幹細胞の存在は明らかになっていませんでした。

本研究では,マウス消化管に存在する組織幹細胞の遺伝子発現パターンを詳細に比較解析し,ヒト胃幽門前庭部の組織幹細胞で膜タンパク質AQP5が特徴的に発現していることを発見しました(図1)。さらに,機能的な検証を通して,遺伝子変異の蓄積したAQP5陽性胃がん細胞は,がん幹細胞様の性質を持つことを明らかにしました(図2)。

本研究成果により,ヒト胃がんの発生・進展メカニズムおよび胃がん幹細胞への理解が飛躍的に深まり,胃がんの新規治療薬および新たな治療法の開発に大きく貢献することが期待されます。
本研究成果は,2020年2月5日18時(英国時間)に英国科学誌『Nature』に掲載されました。


 

図1.

胃幽門前庭部においてAQP5陽性の胃組織幹細胞を特定した。

 

 

 

図2.

AQP5陽性細胞は遺伝子変異の蓄積した胃がんにおいてがん幹細胞様の性質を示す。

 

 

【用語解説】
※1 組織幹細胞
成体の各組織に存在する最終分化していない細胞。細胞分裂によって自ら増殖しつつ,分化細胞を生み出し,組織の恒常性維持や損傷した組織の修復に必須な役割を担う。

※2 アクアポリン5(AQP5)遺伝子
細胞膜に存在する細孔を持ったタンパク質。MIP(Major Intrinsic Proteins)ファミリーに属する膜内在タンパク質の一種。細胞への水の取り込みに関係している。

※3 がん幹細胞
自らと全く同じ細胞を作り出す「自己複製能」と,多種類の細胞に分化しうる「多分化能」を持ち,がん組織中で自己複製しつつ,分化によって周囲のがん細胞を生み出すと考えられている細胞。

※4 Lgr5遺伝子
ロイシンリッチリピート含有Gタンパク質共役受容体5 (Leucine-rich repeat-containing G-protein coupled receptor 5, LGR5)をコードする遺伝子。細胞の分化運命の決定を調整するWntシグナルの標的遺伝子で,消化管組織の恒常性維持および傷害からの修復に必須な上皮幹細胞のマーカー遺伝子。近年では消化管のみならず,腎臓,肺,肝臓,子宮など広範な上皮組織に発現していることが知られている。また,正常上皮幹細胞のみならず,大腸がんのがん幹細胞マーカーとしても報告されている。

 

 

詳しくはこちら

Nature

 

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