ストレスによる麻薬欲求の増大メカニズムを解明

掲載日:2020-2-6
研究

金沢大学医薬保健研究域薬学系の金田勝幸教授らの研究グループは,京都大学大学院薬学研究科の金子周司教授,名古屋大学環境医学研究所の山中章弘教授,北海道大学大学院薬学研究院の南雅文教授との共同研究により,ストレスによってなぜコカインに対する欲求が増大するのかを世界で初めて明らかにしました。

麻薬や覚醒剤などによる薬物依存症の治療を困難にしているのは,一旦止めても再び薬物を摂取してしまう再燃です。再燃は,さまざまなきっかけによって引き起こされますが,ストレスはその重要な一因であることが分かっています。しかし,ストレスがなぜ再燃を引き起こすのか,つまり,ストレスによってなぜ薬物に対する欲求が増大するのかは分かっていませんでした。

今回,薬物欲求に関与することが示唆されている内側前頭前野(medial prefrontal cortex, mPFC(※1))とストレスホルモンとも呼ばれるノルアドレナリン(noradrenaline, NA(※2))に着目し,mPFC神経細胞同士の情報伝達と細胞の活動に対するNAの影響を調べたところ,NAは興奮性の神経情報伝達を顕著に増大させ,神経活動を上昇させることを発見しました。さらに,マウスを用いてストレス負荷によってコカインに対する欲求が増大するモデルを作製し,このマウスのmPFCでNAの作用をブロックしたところ,ストレスによって増大したコカイン欲求が顕著に抑制されることが明らかになりました。今回の結果は,ストレスにより遊離されたNAがmPFCの過剰な興奮を引き起こし,これにより,コカインに対する欲求が増大されることを示しています。

本研究成果により,薬物依存症の再燃を抑制・治療する方法の開発につながることが期待されます。

本研究成果は,2020年2月6日(日本時間)に国際学術雑誌『Neuropharmacology』のオンライン版に掲載されました。


 

図. 研究概要

ストレス負荷により内側前頭前野(mPFC)でのノルアドレナリン(NA)遊離が増大し,mPFC神経細胞の活動性が上昇する。これにより,コカインに対する欲求が増大する。

 

 

【用語解説】
※1 内側前頭前野(mPFC)
認知,判断,記憶などの機能発現を司る大脳新皮質の一領域で,薬物報酬の情報処理にも関与する。

※2 ノルアドレナリン(NA)
神経伝達物質の一つ。ストレスが負荷されると脳内で遊離が増大する。

 

 

詳しくはこちら

Neuropharmacology

研究者情報:金田 勝幸

 

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