水素発生触媒のナノスケールの触媒活性サイトを電気化学的にイメージングすることに成功!
~効率的な触媒開発に貢献~

金沢大学ナノ生命科学研究所の髙橋康史准教授,東北大学の末永智一特任教授,Johns Hopkins大学のMingwei Chen教授らの共同研究グループは,走査型プローブ顕微鏡の一種である走査型電気化学セル顕微鏡(SECCM)(※1)の高解像度化を行い,水素発生反応(HER)の触媒として期待されている遷移金属カルコゲナイドナノシート(※2)の触媒活性サイトを電気化学的にイメージングすることに成功しました。

水素ガスの効率的な生成技術は,再生可能エネルギーの観点や燃料電池自動車などの幅広い分野で注目が集まっています。二硫化モリブデン(MoS2)をはじめとする遷移金属カルコゲナイドナノシートは,非常に安価で大量に作製が可能であり,白金(Pt)に代わる水素発生反応の触媒として期待されています。しかしPtに比べ触媒能が低く,触媒能を向上させるための試みが世界で活発に行われています。そのほとんどは,材料全体の水素発生反応の効率から評価されており,電気化学的に活性な部分がどのように分布しているかは明確ではありませんでした。

本共同研究グループは,世界最高レベルの空間分解能を有するSECCMを開発し, MoS2ナノシート上に存在するHER活性サイトを,電流値のイメージとして直接可視化することに成功ました。これにより,MoS2ナノシートの縁部分(エッジ)でHER活性が高いことが分かりました。さらに,SECCMによる観察で,局所的に電気化学的に硫黄の欠陥を形成し,触媒活性を亢進させることや,劣化したMoS2ナノシートではエッジでのHER活性が平坦部分(テラス)よりも低下することを可視化することに成功しました。

本研究で確立した技術は,効率的な水素発生触媒の開発に活用されることが期待されます。

本研究成果は,2019年11月28日にドイツ化学会誌『Angewandte Chemie International Edition』のオンライン版にAccepted Articleとして掲載されました。


 

図1. SECCMによるMoS2ナノシート計測の概要

(a)SECCMを用いたMoS2ナノシートのHER活性サイトのイメージングの原理図。(b)ナノピペットとサンプルの接触部の拡大図。ナノピペットとサンプルとの間に形成されるナノスケールの電気化学セルを用いて,局所的な電気化学計測を実現した。
 

 

 

図2. SECCMを用いたMoS2ナノシートの電気化学イメージング

(a)SECCMを用いたMoS2ナノシートのHER由来の電流イメージ。計測範囲:15×15 m2。(b)MoS2のエッジ(赤)とテラス(緑),基板である高配向性熱分解グラファイト(HOPG)のステップ(灰)とテラス(白)を色分けした。(c)領域に依存したHER活性の指標となる過電圧の評価。領域ごとにシグナルを合わせて平均化した。縦軸はナノピペットで計測される電流密度を,横軸は印加した電圧を表している。(d)領域に依存したターフェルスロープ。縦軸は印加した電圧を,横軸はナノピペットで計測される電流密度を対数表示している。MoS2ナノシートのエッジは,非常に高いHER活性があることが,イメージや電気化学的な評価から明らかとなった。

 

 


【用語解説】
※1 走査型電気化学セル顕微鏡(SECCM)
電解液を充填したナノスケールのピペットを探針として用いて,ナノピペット先端を試料に近接させ,液滴状の電気化学セルを試料表面に形成し,この電気化学セルをナノスケールの反応場として利用することで電気化学計測を行う。ナノピペットを走査しながらこの計測行うことで,試料表面の電気化学活性を,電流や電位の電気化学イメージとして可視化する。

※2 遷移金属カルコゲナイドナノシート
遷移金属元素と,硫黄(S),セレン(Se),テルル(Te)などのカルコゲン元素とが結合した層状構造を持つ化合物であり,原子レベルの厚さで安定な層状結晶構造を有するもの。原子レベルの層状構造特有の積層時とは異なる電子状態を発現するため,触媒としての利用が期待されている。

 

 

詳しくはこちら

Angewandte Chemie International Edition

研究者情報:髙橋 康史

 

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