ゼブラフィッシュの腎臓から造血幹細胞を分離する手法の開発

金沢大学理工研究域生命理工学系の小林功助教らの研究グループは,ゼブラフィッシュの成体から造血幹細胞(※1)を分離するための革新的な手法を開発しました。

造血幹細胞は,あらゆる血液細胞を生涯にわたって作り続けることができる細胞であり,その性質を明らかにすることは,白血病などの血液に関連する病気の治療法を開発するために重要です。インド原産の熱帯魚であるゼブラフィッシュは飼育が比較的容易であるだけでなく,生きたままの状態で組織や細胞の観察が可能であることなどから幹細胞研究のモデル生物として使用されています。ゼブラフィッシュなどの魚類は腎臓内で造血が行われていることが知られていますが,ゼブラフィッシュの腎臓から造血幹細胞だけを分離することは難しく,研究課題の1つとなっていました。

本研究では,造血幹細胞に不可欠な遺伝子であるgata2aおよびrunx1に着目し,これら2つの遺伝子を分子マーカーとして用いることで,ゼブラフィッシュの腎臓から造血幹細胞を分離する画期的な手法を開発しました。具体的には,gata2aおよびrunx1遺伝子を,それぞれ緑色蛍光タンパク(GFP)および赤色蛍光タンパク(mCherry)で標識した上で,緑と赤の両方の蛍光を放つ細胞だけをフローサイトメトリー法(※2)によって回収し,細胞移植実験および細胞培養実験を行ったところ,この細胞集団に造血幹細胞が濃縮されていることが明らかになりました。

本研究で開発された手法は,従来の方法よりも造血幹細胞を540倍に濃縮できるため,これまで困難とされてきた造血幹細胞レベルでのさまざまな解析を容易にします。さらに,ゼブラフィッシュのモデル生物としての利点を生かし,将来的には生きたままの状態で造血幹細胞の挙動を観察できる可能性があります。今後,造血幹細胞に関する研究や解析が進展することにより,造血幹細胞が分裂・増殖しながらさまざまな血液細胞を供給し続けている仕組みの解明につながることが期待されます。

本研究成果は,2019年10月2日(英国時間)に英国科学誌『Scientific Reports』のオンライン版に掲載されました。


 

図. ゼブラフィッシュ腎臓における造血幹細胞分離とその解析手法の概略図

フローサイトメトリー法により,gata2a:GFPおよびrunx1:mCherryの両方を発現する細胞(gata2a+ runx1+)を回収する(左図)。回収した細胞を用いて細胞移植実験を行ったところ,わずか100個のgata2a+ runx1+細胞が100万個以上に及ぶ全ての血液細胞を16週間以上にわたって供給し続けていることが明らかになった(右図)。

 

 

 


【用語解説】
※1 造血幹細胞
全ての種類の血液細胞に分化することができるとともに,その能力を保持したまま自身を複製することができる細胞。全ての血液細胞の根幹ともいえる細胞であるため,造血幹細胞の破綻は血液全体の破綻を意味する。ヒトでは骨髄中に存在するが,その存在比率はわずか0.005%程度であるため解析が難しく,増殖や分化の仕組みについては,いまだに不明な点が多い。

※2 フローサイトメトリー法
細胞を懸濁した液体を細い管に流すことで,細胞が一列に流れる状態にし, 細胞一つ一つにレーザーを当て, 反射光や蛍光を測定することで,細胞の大きさや特性などを検出する方法。さらに特定の細胞集団だけを分取することもできる。

 

Scientific Reports

研究者情報:小林 功

 

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