短時間ガンマ線バーストにおけるX線超過成分の時間変動を解明

掲載日:2019-10-28
研究

金沢大学大学院自然科学研究科博士後期課程3年の加川保昭さんと理工研究域数物科学系の米德大輔教授らの研究グループは,短時間ガンマ線バースト(※1)に付随するX線超過(※2)成分の統一的な減光モデルを発見しました。

宇宙空間のはるか遠くにある天体やブラックホールなどの存在を確認することは,宇宙の成り立ちを解明する上で非常に重要です。これまでは天体から届くX線やガンマ線といった電磁放射線の観測がその唯一の方法でしたが,それに加えて重力波(※3)の検出から得られる情報を活用することで,さらに確度の高い観測が可能になると考えられてきました。特に,ブラックホールや中性子星などの高密度天体同士の連星合体は,非常に強い重力波が放射されると同時に短時間ガンマ線バーストも発生すると考えられていることから,絶好の観測ターゲットとなります。

本研究では,複数の短時間ガンマ線バーストイベントに付随するX線超過成分の系統的なデータ解析から,X線超過の時間変動が指数関数的な減光で統一的に記述し得ることを発見しました。また,X線の減光率と光度との間に強い負の相関関係が示され,暗いX線超過イベントほどエネルギーの放射効率が悪いという特徴を持つことが確認されました。

さらに,X線の指数関数的な減光から,連星合体後に形成される中心天体や合体の衝撃で周辺にまき散らされる物質の運動に対しての示唆が得られており,ガンマ線バーストのエネルギー源などの解明やブラックホールが形成される際の強重力環境の理解につながることが期待されます。

本研究成果は,2019年6月5日(米国東海岸標準時間)に国際学術誌『The Astrophysical Journal』のオンライン版に掲載されました。

 


 

図1. X線超過成分の減光率と光度の相関関係

黒点は指数関数モデルから考えられるX線超過成分の減光率τと光度Lの散布図。赤線はデータに対して最適なべき関数。青線はニール・ゲーレルズ・スフィフト衛星に搭載されたX線望遠鏡の検出限界で,点線と実線はそれぞれ短時間ガンマ線バーストが観測されている平均的な距離と最も近い距離で発生した場合を考慮している。赤線のべき関数が示す勾配は非常に急なため,暗いイベントほど光っている時間が短く,X線放射でのエネルギー放出効率が悪いと考えられる。一方でτ=20 sec付近で点線の検出限界よりも1桁程度明るいデータ点が得られているため,点線よりも暗いイベントを見逃している可能性は低く,得られた相関はX線超過成分の本質的なものと考えられる。

 

 

図2. 短時間ガンマ線バーストに続くX放射と減光モデルの比較例

緑,青,赤はニール・ゲーレルズ・スフィフト衛星で観測されたX線データ。黒線は指数関数減光モデル,灰・黄線は理論モデルから考えられるべき型減光モデル。点線はX線超過成分の後に続くX線残光成分を表すモデル。黒の一点鎖線は緑点が観測されていないことから考えられるX線感度限界曲線。急激に減光するX線超過成分に対して,べき型モデルは感度限界を逸脱してしまうものがある一方で,指数関数モデルは全てのイベントの時間的振る舞いをよく表せている。
 

 

 

【用語解説】
※1 ガンマ線バースト
数秒から数十秒にわたって特にガンマ線で明るく輝く宇宙最大の爆発現象。大質量星の崩壊を起源として超新星爆発を伴う長時間ガンマ線バーストと,中性子星を含むブラックホールなどの高密度星の連星が合体するときに生じる短時間ガンマ線バーストの2種類に分けられる。

※2 X線超過
短時間ガンマ線バーストの後に百秒程度継続し,緩やかな時間変動を伴う比較的低いエネルギーのX放射現象。短時間ガンマ線バーストに匹敵する総エネルギー量を持つイベントも観測されているため,重力波との同期観測の有力な候補天体の一つと考えられているが,放射メカニズムや発生機構などは未解明である。

※3 重力波
時空の揺らぎが波として伝わる現象。ブラックホールや中性子星といった重く小さな星の連星が合体する瞬間に特に強い重力波が放出されることが期待されており,2015年9月の連星ブラックホール合体を起源とする重力波の初観測から2017年8月の連星中性子星合体イベントを含めた11例が2017年末までに観測された。2019年4月から感度を向上させた米国のLIGOと欧州のVirgo観測所で再び観測が開始され,多くの重力波イベントが観測されている。2019年末には日本のKAGRAも加わる予定である。

 

The Astrophysical Journal

研究者情報:米德 大輔

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