有機薄膜太陽電池を使った高活性光触媒の作成に成功
-可視光に応答する光触媒の性能向上に期待-

金沢大学理工研究域物質化学系の故桑原貴之准教授,髙橋光信教授およびナノマテリアル研究所の辛川誠准教授らと,東京工業大学科学技術創成研究院化学生命科学研究所の長井圭治准教授の共同研究グループは,遷移金属を含まない有機薄膜太陽電池(OPV)(※1)のアノード電極(※2)を物理的に剥がし,有機材料であるフタロシアニン(※3)を触媒として付与することで,高効率な光触媒として作用させることに成功しました。

近年,太陽光エネルギーの有効活用が求められる中で,太陽光発電や光触媒による水素生成などが実用化され,普及が進められています。しかし,現在用いられている酸化チタンを使用する光触媒は紫外線にしか応答しないことから,東京工業大学の研究グループではこれまで,遷移金属を全く含まない有機材料で,可視光に応答する光触媒を開発してきました。

本研究では,本学で開発された逆型有機薄膜太陽電池(※4)のアノード電極を物理的に剥離させ,この表面にフタロシアニンを蒸着させることで,通常は酸化反応の起こりにくい負の電位で酸化反応を起こし,大きな酸化力を持つ光触媒を得ることに成功しました。

今回開発された独創的な新手法は,可視光照射で高効率に光酸化反応を起こすことを可能にするものであり,従来にない用途を持つ新しい光触媒の設計につながると期待されます。

本研究成果は,2019年10月1日(英国時間)に英国王立化学会速報誌『Chemical Communications』のオンライン版に掲載されました。


 

図1. 逆型有機薄膜太陽電池(左)と今回用いた光触媒電極(右)

 

 

図2.

今回開発した有機光触媒を用いた有機分子(チオール)の酸化反応を示す電流電位曲線フタロシアンを付与しない場合(左図),光照射有り無しのどちらでも酸化反応が起こらない。フタロシアニンを付与させた場合(右図),可視光照射で-0.35 V(銀塩化銀電極標準)からチオールの酸化が観測された。

 

 


【用語解説】
※1 有機薄膜太陽電池(OPV)
現在用いられているシリコンではなく,プラスチックなどの有機材料で太陽電池を作る試みは,ノーベル賞受賞者の白川英樹博士による導電性高分子の発明直後から始まった。今世紀になって,新材料の開発やナノ構造の精密な制御により,著しく効率が上昇することが明らかになり,「軽くて曲げられる太陽電池を塗布プロセスで」製造する研究が社会実装レベルで進められている。

※2 アノード電極
酸化反応が行われる電極。

※3 フタロシアニン
新幹線の青色に用いられている有機色素である。紫外線や放射線にも抜群の耐候性を示すことから,航空機表面の塗装にも使われて効果をあげている。フタロシアニンの多くがp型半導体となる。

※4 逆型有機薄膜太陽電池
OPV研究では,効率を重視した構造の最適化が行われてきたが,近年は長時間の安定性が重視されている。OPVでも正極と負極があるが,金沢大学の髙橋教授や故桑原准教授らは,この積層順番を従来開発のOPVと入れ替えた逆型有機薄膜太陽電池では安定性が極めて向上し,生産を大気下で行えるとともに,長時間使用時の安定性が高いことを世界に先駆けて明らかにした。

 

詳しくはこちら

Chemical Communications

研究者情報:髙橋 光信

研究者情報:辛川 誠

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