脳細胞の運命を左右するスイッチを発見!

金沢大学医薬保健研究域医学系の河﨑洋志教授の研究グループは,赤ちゃんの健康な脳が形成される際に重要な細胞の運命が決まる仕組みを世界に先駆けて明らかにしました。

脳は,ヒトの臓器の中でも意識や記憶などに関わる大変重要な臓器です。脳の中には情報を処理する神経細胞(※1)と,主に神経細胞を助ける働きを持つ星状膠細胞(※2)があります。赤ちゃんの脳が形成されるときには,神経細胞も星状膠細胞も,脳のほぼ全ての細胞を作るもととなる細胞「神経幹細胞」(※3)から作られます。脳が正しく働くためには,赤ちゃんの脳が形成されるときに,適切な数の神経細胞と星状膠細胞が作られることが重要です。神経細胞ばかり作られても,逆に星状膠細胞ばかり作られても,脳は正しく機能することができません。従って,神経幹細胞が神経細胞を作るのか,それとも星状膠細胞を作るのか,その運命を左右するスイッチの仕組みを理解することは,健康な脳の形成過程を明らかにする上で非常に重要です。

本研究グループは,マウスの脳を用いて,線維芽細胞増殖因子(FGF)(※4)シグナルと呼ばれる遺伝子経路が,神経幹細胞が神経細胞を作るか星状膠細胞を作るかを決めるスイッチの実体であることを発見しました。

本研究により,赤ちゃんの健全な脳が形成されるための精巧な仕組みが明らかになり,神経細胞と星状膠細胞のバランス異常が引き起こす脳異常の病態解明が期待されます。

本研究成果は,2019年6月7日(米国東海岸標準時間)に米国科学誌『The Journal of Neuroscience』のオンライン版にEarly Releaseとして掲載されました。


 

図1. 脳の形成過程における神経幹細胞から神経細胞と星状膠細胞への分化

赤ちゃんの脳が形成されていくとき,神経細胞も星状膠細胞も神経幹細胞から作られる。作られる順番としては,最初に神経細胞が作られ(左),その後に星状膠細胞が作られる(右)。神経細胞から星状膠細胞へ運命を切り替えるスイッチの実体が,FGFシグナルであることを発見した。

 

 

 

図2. FGFシグナルの刺激増強によって,神経幹細胞から作成される細胞の変化

神経幹細胞から神経細胞が作られる条件で(左,矢印),FGFシグナルの刺激を増やしたところ星状膠細胞が作られるようになった(右,矢頭)。

 

 


【用語解説】
※1 神経細胞
脳の中にある,主に脳の情報処理を行う細胞。さまざまな病気によって神経細胞が障害を受けると,脳の働きが低下し,記憶力低下などの症状が出る。

※2 星状膠(せいじょうこう)細胞
脳にある細胞の中で,神経細胞以外をまとめて膠細胞という。この膠細胞の代表格が星状膠細胞である。星型の形を持つことに由来して名付けられ,アストロサイトとも呼ばれる。神経細胞への栄養の補給や廃棄物の除去など,神経細胞の働きを助けることが知られている。

※3 神経幹細胞
神経細胞や膠細胞などを生み出す細胞。脳が形成されるとき,神経幹細胞は最初に神経細胞を作り出し,時間の経過と共に星状膠細胞を生み出すように変化する。

※4 線維芽細胞増殖因子(FGF)
遺伝子の一種。身体のさまざまな部位で,細胞の分裂を増やし生存を助ける効果を持つことが知られていた。本研究により,神経細胞から星状膠細胞への運命を決定付けるという全く新しい働きがあることが分かった。

 

詳しくはこちら

The Journal of Neuroscience

研究者情報:河﨑 洋志

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