愛情ホルモン「オキシトシン」より効果持続が見込める有機合成化合物を発見!
~オキシトシンよりも長時間作用・高効果が見込める化合物の合成に成功~

掲載日:2019-5-29
研究

金沢大学子どものこころの発達研究センターのチェレパノフ スタニスラフ博士研究員,東田陽博特任教授,横山茂教授,大阪大学大学院小児発達学研究科金沢校博士課程3年のシャバロバ アンナ,金沢大学学際科学実験センターの堀家慎一准教授,大黒多希子教授,金沢大学医薬保健研究域医学系の山本靖彦教授,東北大学大学院薬学研究科の山口浩明准教授,北海道大学大学院薬学研究院の周東智教授らの共同研究グループは,社会性行動の調節に重要なホルモンであるオキシトシン(OT)(※1)の類似体を有機合成し,それらの化合物の中から,マウス体内で天然に作られる内在性OTよりも長期間作用し,効果も大きい化合物を新しく見いだしました。

OT は,ヒトが他人のこころを推し量り,交流していく際に必要なホルモンとされ,愛情ホルモンとも称されています。最近では,自閉症などの精神疾患の中心症状である社会性交流障害に有効である可能性が示されるようになりました。しかし,治療薬としてのOTには,克服すべきさまざまな弱点があることも知られています。

本共同研究グループは,OTの基本骨格に修飾する低分子を工夫することにより,OTよりも強力で,効果持続が見込める新規化合物を有機合成することに成功しました。さらに,CD38遺伝子が欠損したマウス(CD38ノックアウトマウス)(※2)および遺伝子編集法の一つであるCRISPER/Cas9法により作出した自閉症マウスモデルを用いた個体レベルの行動実験により,合成した化合物は天然型(内在性)OTよりも子育て行動が持続することを確認しました。

これらの化合物は,将来自閉スペクトラム症等の症状改善を目指す候補化合物として開発されることが期待されます。

本研究成果は,2019年4月2日(米国東部標準時間)に米国化学会誌『Journal of Medicinal Chemistry』のオンライン版に掲載されました。


 

図1. OTと類似体の化学構造

下表は,類似体化合物(1-6)におけるR1-R4とXの置換基を示す。

 

 

 

図2. 父親が子育て行動をするまでの潜時の投与後の時間経過

潜時は,CD38ノックアウトマウスが子育て行動を示すまでの待機時間であり,600秒(10分)は子育てをしないことを示す。内在性OTを投与した場合には子育て行動が6時間程度持続し,化合物2を投与した場合には16時間程度持続する。化合物5を投与した場合は24時間以上持続することが分かる。

 

 

 


【用語解説】
※1 オキシトシン
脳下垂体後葉ホルモンの一種。神経内分泌ホルモンであり,母性や人間関係の形成などの社会行動や交流の促進,不安の解消などに関係している。

※2 CD38遺伝子ノックアウトマウス
CD38は細胞膜タンパク質であり,サイクリックADP-リボースを産生する酵素活性を持つ。CD38により産生されたサイクリックADP-リボースは細胞内情報伝達物質として働き,細胞内カルシウム濃度上昇を引き起こす。CD38をコードする遺伝子を欠損させたマウス(CD38KOマウス)ではOTの脳内遊離が減少し,自閉症様の社会性記憶喪失や社会性交流障害を示すことが知られている。これらの社会性行動障害はOTの皮下あるいは腹腔内への投与により回復し,自閉症治療法研究のモデル動物とされている。

 

詳しくはこちら

Journal of Medicinal Chemistry

研究者情報:東田 陽博

研究者情報:横山 茂

研究者情報:山本 靖彦

研究者情報:堀家 慎一

研究者情報:大黒 多希子

 

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