グラフェン構造を数学的観点から設計し,その優位性を電気化学イメージングにより初めて実証
非金属の電極による安価な水素製造技術の加速へ

掲載日:2019-4-4
研究

金沢大学ナノ生命科学研究所の髙橋康史准教授,東北大学材料科学高等研究所(AIMR)/同大学院環境科学研究科の熊谷明哉准教授,大阪大学大学院基礎工学研究科の大戸達彦助教らは,筑波大学数理物質系の伊藤良一准教授を研究プロジェクトリーダーとして,炭素原子一層からなるグラフェン(※1)のエッジ構造を数学的な観点で捉え,グラフェンのエッジ構造に意図的に窒素(N)とリン(P)を化学ドープ(※2)することで幾何学的歪みを意図的に作成することに成功するとともに,化学ドープしたエッジ構造を持つグラフェンは水素発生能力が高いことを実証しました。

二酸化炭素を排出しない固形燃料に替わるクリーンな次世代エネルギーとして期待されるエネルギーキャリアである水素は,特に燃料電池車への応用が期待されています。その応用化・実用化への喫緊の課題として,通常用いられる高価な貴金属である白金に代わる,安価かつ大量に製造可能な電極触媒を基盤とする生産技術の確立が求められています。

本共同研究グループは,グラフェンのエッジに意図的に窒素とリンを化学ドープする技術を確立した上,世界有数の高分解能を持つ最先端の電気化学顕微鏡技術「ナノ電気化学セル顕微鏡」(※3)とDFT(density functional theory)計算(※4)などを駆使することで,設計したグラフェンのエッジ構造と化学ドープの相乗効果によって水素発生反応(※5)が飛躍的に向上することを突き止めました。本結果は一般的に用いられる高価な貴金属である白金に迫るものであり,非金属元素の化学ドープとエッジ構造などの原子構造が,電極の反応性の向上に寄与するものであることを世界で初めて実証しました。

今後,本研究を起点に,再生可能エネルギー電力と非金属のみで構成される電極を組み合わせることで,環境に負荷がかからない水素製造の創出技術に結び付くとともに,数学的観点を利用した材料の表面構造と化学ドープ状態の制御などが次世代物質の探索・設計・開発につながり,金属フリーで安価に水素を発生させる水素社会構築に向けた研究への礎となることが期待されます。

本研究成果は4月1日(英国時間)にWileyが発行する『Advanced Science』のオンライン版に掲載されました。

 

 

 

図1.

(左)水素発生反応に関与する電気化学反応の測定結果。グラフェンのエッジ構造にNPドープを行った際に最も反応性が高いことが分かり,非金属のみで構成されているにもかかわらず,貴金属で一般的に用いられる白金に迫る特性が得られている。(右)DFT計算による各グラフェンと白金におけるプロトンの吸着エネルギー。NPドープを行ったグラフェンエッジ構造が白金よりも抑制されており,高い電極触媒能が期待される。

 

 

 

図2. ナノ電気化学セル顕微鏡による電気化学イメージの画像

開口したグラフェンのエッジ構造が水素の発生する反応性の高い領域となっており,構造とNPドープが電極触媒性の向上に大きく関与していることを,電気化学反応を直接可視化することで示した。

 

 

 

【用語解説】

※1 グラフェン
炭素原子がハチの巣状の六角形構造にて構成された二次元平面上に広がったシート状の材料であり,原子1個の厚さからなる。理想的な平面構造を持ち,通常のシートが重なった三次元構造と違い特異な機能性を示す。近年では,エネルギー材料への応用が期待されている。

※2 化学ドープ
材料結晶内に異種元素を意図的に少量添加することをいう。その異種原子内の電子や正孔を利用し,添加濃度を調整することで,電子状態や物理的特性などを制御することが可能であり,半導体の分野で多く用いられる。

※3 ナノ電気化学セル顕微鏡
電解液と参照電極を挿入し,1マイクロメートル以下で開口したピペットを試料に近づけて微小液滴の電気化学セルを形成し,そのセルを介して電気化学反応を直接測定もしくは観察する技術。

※4 DFT(density functional theory)計算
密度汎関数理論(density functional theory)の略称であり,さまざまな物質の物理的特性,特に電子密度を電子エネルギーから計算することが可能な理論を用いた計算手法。

※5 水素発生反応
水の電気分解を用いた水素を製造する手法の一つ。化石燃料を使用せず,排気ガスを出さない。陽極と陰極に電気を流すと,陽極では酸素,陰極では水素が発生する。

 

 

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Advanced Science

・ 研究者情報:髙橋 康史

 

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