愛情ホルモン「オキシトシン」の分子作用メカニズムを解明!

掲載日:2019-3-5
研究

金沢大学医薬保健研究域医学系血管分子生物学の山本靖彦教授,子どものこころの発達研究センターの東田陽博特任教授,医薬保健研究域医学系神経解剖学の堀修教授,医薬保健研究域医学系機能解剖学の尾﨑紀之教授,医薬保健研究域医学系脳神経外科学の中田光俊教授,公立小松大学,東北大学,ハーバード大学(アメリカ合衆国),クラスノヤルスク医科大学(ロシア)などの国際共同研究グループは,社会性行動に重要な愛情ホルモンであるオキシトシン(※1)の脳内移行および中枢神経での作用発揮の分子メカニズムを発見しました。

オキシトシンは,人が他人のこころを推し量り,交流していく際に必要なペプチドホルモンとされ,それを司る社会脳の発達に欠かせないものと考えられています。脳内で合成されたオキシトシンは脳内に分泌されたり,血液中へ放出されることは分かっていましたが,血液中のオキシトシンが中枢神経で作用を発揮する際に必須となる末梢循環から脳内移行のための血液脳関門(※2)の通過の分子メカニズムは明らかにされていませんでした。

本国際共同研究グループは,哺乳類にしか存在せず,炎症や老化などの進展に関わるパターン認識受容体のひとつであるRAGE(※3)に着目し,マウスを用いた実験を行いました。その結果,脳血管内皮細胞におけるRAGEの存在とオキシトシンの脳内移行には相関があることを見いだし,オキシトシンはRAGEに結合して血液脳関門を通過することを明らかにしました。RAGEを欠くRAGEノックアウトマウスの母親の子育ては下手で,仔の生存率は低い状態でしたが,脳血管内皮細胞へのRAGE発現を遺伝子操作で回復することで,仔の養育行動が戻り生存率が高まることが確認され,RAGEは養育行動を引き起こすための重要な役割を担っていることが明らかになりました。

本研究成果は,“親子の絆”や“愛情”行動の分子機序の理解につながり,育児放棄や虐待など,今日の深刻化する社会問題の解決の一助になる可能性を秘めています。

本研究成果は,2019年2月25日(英国時間)に英国科学誌Nature Research出版誌「Communications Biology」のオンライン版に掲載されました。

 

 

 

図1.

脳血管内皮細胞におけるRAGEの存在とオキシトシンの脳内移行との相関を示す。(上)RAGEノックアウトマウスでは,オキシトシンを皮下投与しても脳脊髄液中のオキシトシン濃度の上昇はみられない。(下)さらに,オキシトシンの皮下投与によって,RAGEノックアウトマウスでは,脳視床下部の神経活動も上昇しない。

 

 

図2.

脳血管内皮細胞におけるRAGEの存在とマウスにおける養育行動の相関を示す。RAGEノックアウトマウスの母親の仔の生存率は低い。RAGEノックマウスの母親の脳血管内皮細胞にRAGEを遺伝子操作で戻した結果,仔の生存率が有意に高まることが明らかとなった。

 

 

【用語解説】

※1 オキシトシン
脳下垂体後葉ホルモンの一種。母性や人間関係の形成などの社会行動や,不安の解消などに大きく関係しているといわれている。

※2 血液脳関門
脳血管内皮細胞を主体として,循環血液と脳神経系の物質輸送を制御する機能を担っており,脳の活動に必須な栄養素を選択的に取り込む一方,薬剤や異物の脳内への輸送を著しく制限する重要な生体内バリア。

※3 RAGE
老化に関わる糖化反応(グリケーション)で生じる最終糖化産物(advanced glycation end-products, AGE)の受容体。炎症を惹起し,老化関連疾患(糖尿病,動脈硬化,がん転移,肺線維症など)の発症進展に原因的に関わる。さまざまな自然疾患に関わることから,パターン認識受容体の一員として分類されている。

 

詳しくはこちら

Communications Biology

・ 研究者情報:山本 靖彦

・ 研究者情報:東田 陽博

・ 研究者情報:堀 修

・ 研究者情報:尾﨑 紀之

・ 研究者情報:中田 光俊

 

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