昆虫の生得的行動を生み出す神経回路の新しい解析技術を確立!

金沢大学理工研究域生命理工学系の木矢星歌研究協力員(日本学術振興会特別研究員PD),木矢剛智准教授の研究グループは,昆虫の脳で,行動に伴って神経活動が起きた細胞を特異的に可視化し,さらに可視化した神経細胞を光によって活性化することができる新しい技術を確立し,行動モチベーションを制御する神経細胞の同定に成功しました。

昆虫は多様な生得的行動(本能行動)を示しますが,これらの行動がどのような神経回路の働きによって生み出されているのか,不明な点が多く残されています。生得的行動を生み出す神経回路の全貌や機能を明らかにするためには,その行動時に活動が起きた神経回路を明らかにし,さらに神経回路の活動を人為的に操作することで行動を操作することができる技術の確立が求められていました。

今回,本研究グループは,モデル昆虫であるショウジョウバエで,神経活動依存的に発現する遺伝子Hormone receptor 38 (Hr38)(※1)の転写活性を利用し,神経回路を可視化・操作する技術を確立しました。本技術を用いて,オスのショウジョウバエの交尾行動時に活動が起きた神経細胞を緑色蛍光タンパク質(GFP)(※2)によって可視化することに成功しました。また,交尾行動時に活動が起きた神経細胞にチャネルロドプシン(※3)を発現させることで,光照射によってオスの交尾行動を誘発させることに成功しました。さらに,本技術によって特定の神経細胞群(aSP2神経細胞)が交尾行動特異的に活動することを見いだし,aSP2神経細胞は交尾行動のモチベーションを制御する機能を持つことを明らかにしました。

これらの知見は将来,他の昆虫種にも本研究で確立された技術を適用することで,さまざまな昆虫の生得的行動の神経基盤の解明および行動の制御に活用されることが期待されます。

本研究成果は,2019年3月5日午後3時(米国東海岸標準時間)に米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences」のオンライン版に掲載されました。

 

 

 

図1.

fruitless神経回路に限って活動依存的な神経回路の可視化を行った結果。左側の図はショウジョウバエ脳模式図(上段が脳を前方から,下段が脳を後方からみた場合)に,交尾行動によってGFPを発現した神経細胞の位置を緑色で示してある。右側の写真はそれぞれ,交尾行動をしていないオスと,交尾行動をしたオスの脳の写真。脳の全体的像を紫色に染色しており,交尾行動時に活動した神経細胞が緑色に染まっている。スケールバーは100μm。
 

 

 

図2.

活動依存的にCsChrimsonを発現するショウジョウバエを用いて光照射を行った結果。交尾経験がないオス(上段)に光を照射しても交尾行動は起こらなかったが,交尾経験のあるオス(下段)に光を照射すると,腹部を曲げる交尾姿勢が誘発された。

 

 

【用語解説】

※1 Hormone receptor 38 (Hr38)
昆虫のオーファン核受容体の一種。2013年に本研究グループが,昆虫の脳において神経活動依存的に発現し,神経活動のマーカー遺伝子として利用可能であることを見いだした。

※2 緑色蛍光タンパク質(GFP)
下村侑博士(2008年にノーベル化学賞を受賞)によってオワンクラゲから発見されたタンパク質。青色の光を当てると緑色に光るため,神経細胞の可視化に使用される。

※3 チャネルロドプシン
藻類から発見された光駆動型のイオンチャネル。光によってチャネルの開閉が制御されるため,神経細胞に発現させると,光によって神経活動を制御することが可能となる。

 

詳しくはこちら

Proceedings of the National Academy of Sciences

・ 研究者情報:木矢 剛智

 

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