水蒸気とニッケルを用いた非プラズマプロセスによるダイヤモンドの高速・異方性エッチング技術を開発

金沢大学理工研究域電子情報通信学系の德田規夫准教授,大学院自然科学研究科電子情報科学専攻博士後期課程の長井雅嗣氏らの研究グループは,国立研究開発法人産業技術総合研究所先進パワーエレクトロニクス研究センターダイヤモンドデバイスチームとの共同研究(平成29年7月に包括連携協定を締結)により,究極のパワーデバイス材料であるダイヤモンドの高速・異方性エッチング(※1)技術を開発しました。

省エネルギー・低炭素社会の実現のためのキーテクノロジーとして次世代パワーデバイスの開発が求められています。ダイヤモンドは,パワーデバイス材料の中で最も高い絶縁破壊電界(※2)とキャリア移動度(※3),そして熱伝導率を有することから,究極のパワーデバイス材料として期待されています。ダイヤモンドは最も硬い物質であることから,これまでエッチングにはプラズマプロセス(※4)が用いられていましたが,エッチング速度が低いことやエッチング表面近傍に形成されたプラズマダメージがデバイス特性を劣化させること,そして半導体シリコンのプロセスに用いられている結晶の異方性エッチングがなかったことなどから,非プラズマプロセスによるダイヤモンドの高速・異方性エッチング技術の開発が期待されていました。

今回,本研究グループは,高温水蒸気雰囲気下におけるニッケルへの継続的な炭素固溶反応(※5)を用いることにより,世界最速の異方性ダイヤモンドエッチンングプロセスを実現しました(図1)。高温水蒸気雰囲気を用いることで,ニッケル表面が酸化し,ニッケル中の固溶炭素はその酸化ニッケルとの酸化還元反応により,二酸化炭素および一酸化炭素として排出されます。これにより,ニッケル中の炭素の不飽和状態が維持され,高速かつ継続的なダイヤモンドのエッチングが可能となります(図2)。さらに,高温水蒸気は酸素とは異なり,ダイヤモンドを直接エッチングする作用がないため,ダイヤモンドのニッケルと接触する部分のみを選択的にエッチングすることが可能です。また,プラズマを用いないためデバイス性能を劣化させるプラズマダメージはありません。

将来,本技術を応用することで,省エネ・低炭素社会の実現に資する超低損失なダイヤモンドパワーデバイスの創製が期待されます。

本研究成果は,2018年4月27日午前10時(英国時間)に国際学術誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。さらに,「ダイヤモンドの加工方法」として特許も出願しております。なお,本研究の一部は,日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金および本学が独自に行う戦略的研究推進プログラム(先魁プロジェクト)「革新的省エネルギーデバイスの創製」の支援を受けて実施されました。
 

図1

(左)高速エッチング技術を用いて穴をあけた単結晶ダイヤモンド
 (中)異方性エッチング技術を用いて周期的なトレンチ(※6)構造を形成した単結晶ダイヤモンド基板と(右)そのトレンチ構造の上面図と断面模式図

 

図2 高温水蒸気雰囲気下におけるニッケルとダイヤモンドの熱化学反応によるダイヤモンドエッチングのメカニズム

 

【用語解説】
※1 異方性エッチング
ある方向のエッチング(薬品等によって化学的に,またはイオン衝突によって物理的に材料を除去することで目的の形状を得る加工方法)速度が,他の方向に比べて異なるエッチングのこと。結晶面によってエッチング速度が異なることを用いる方法とプラズマ中の垂直方向に加速したイオンを用いる方法がある。一方,等方性エッチングは,あらゆる方向のエッチング速度が等しいエッチングのこと。

※2 絶縁破壊電界
絶縁体に電圧をかけた際,絶縁状態が保てなくなる電界のこと。

※3 キャリア移動度
固体中で電流に寄与するキャリア(電子,正孔)の動きやすさの指標のこと。

※4 プラズマプロセス
プラズマ(気体分子を電離することで正の電荷を持つイオンと電子に分離した状態となった電離気体)を用いたプロセスのこと。化学反応ではエッチングが難しい材料でも,プラズマ中の加速したイオンやラジカルによりエッチングが可能となる。

※5 炭素固溶反応
炭素がある金属の中に溶け込む反応のこと。その際,金属は元の結晶構造を保った状態である。溶け込める量には限界があり,それを固溶限という。

※6 トレンチ
基板表面に形成する溝(トレンチ)のこと。

 

詳しくはこちら [PDF]

Scientific Reports

研究者情報:德田 規夫

 

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