平成30年度文部科学大臣表彰 科学技術賞および若手科学者賞を受賞

掲載日:2018-4-11
研究

平成30年度科学技術分野の文部科学大臣表彰を本学の教員4名が受賞しました。

 

<科学技術賞(開発部門)>
 わが国の社会経済,国民生活の発展向上等に寄与する画期的な研究開発もしくは発明であって,現に利活用されているもの(今後利活用されることが期待できるものを含む)を行った個人もしくはグループまたはこれらの者を育成した個人を表彰

 佐々木 敏彦  人間社会研究域人間科学系・教授  

[績名] 可搬式で高速高性能なX線応力測定装置の開発
 重要部品の製造では,使用部材に対して長期間の使用に耐える品質保証が求められます。一方,産業優位性の観点からは軽量化や省エネの要求も重視されるようになりつつあり,より高負荷の状態での使用が期待されています。こうした強度や耐久性の課題に対し,X線応力測定法は部材の健全性を正確に把握できる技術として期待されていますが,従来の測定法では測定時間が長く可搬性に欠けるなど製造現場や実機への使用には難点がありました。
 本開発では,X線計測において,従来の点計測または線計測から,高精度な面計測(二次元X線計測)を可能とする新技術の導入に成功するとともに,さらに高性能な新データ解析理論も適用可能とし,X線応力測定の実機適用性の大幅な進展と高速高精度化が実現しました。
 本成果により,今後,生産基盤の優位性維持のみならず社会インフラの安全性確保とその有効活用に貢献することが期待されます。

 

<科学技術賞(研究部門)>
 わが国の科学技術の発展等に寄与する可能性の高い独創的な研究または開発を行った個人またはグループを表彰

 篁 俊成  医薬保健研究域医学系・教授

[績名] 内分泌臓器としての肝臓の研究
 肝臓は全身のエネルギー代謝に中心的役割を演じます。しかしながら,肝臓を中心とした臓器間ネットワークとそれを担う分子機構の理解は不十分でした。また,細胞内シグナル伝達を担う生理的活性酸素種を消去する還元ストレスが生体内で生じているのか,およびそれを担う内在性の分子実体は不明でした。
 本研究では,世界最大規模となるヒト肝臓遺伝子発現情報を構築して糖尿病・肥満症患者の肝臓から分泌されるホルモン「ヘパトカイン」を複数同定し,肝臓が内分泌臓器としてヘパトカインを分泌することで糖尿病や加齢で生じるインスリン抵抗性,血管新生抵抗性,運動抵抗性などの多様な「細胞内シグナル抵抗性」を惹起することを示しました。さらにヘパトカインセレノプロテインPの機能解析を通じて,従来提唱されてきた酸化ストレスのみならず,還元ストレスあるいは酸化・還元バランスの破綻もまた糖尿病病態を形成するという新しい概念を提唱しました。
 本成果は,ヘパトカイン異常分泌が疾患を引き起こす概念を提唱し,今後多くの医学系領域で疾病の病態解明と臓器間ネットワーク研究に寄与していくことが期待されます。さらに,過剰な抗酸化をもたらす医療,サプリメント,健康食品の開発を見直す社会的警鐘を鳴らしました。

 米德 大輔  理工研究域数物学系・教授    

[績名] ガンマ線偏光天文学の開拓によるガンマ線バーストの研究
 ガンマ線バースト(GRB)は,数10秒という短時間に膨大なエネルギーを解放する宇宙最大の爆発現象であり,相対論的な速度を持ったジェットの放出により発生すると考えられています。しかしながら,「なぜガンマ線を放射するのか」や「相対論的ジェットはどのように形成されるのか」という根本的なメカニズムについてはよく分かっていませんでした。
 本研究では、「ガンマ線偏光観測」という天文学における未開拓な手法に着目し,2010年に世界初となるガンマ線偏光検出器を宇宙探査機に搭載することで,世界に先駆けて観測を実施。GRBからガンマ線偏光を検出するとともに,偏光角の時間変化を検出することに成功し,GRBの放射メカニズムはシンクロトロン放射である可能性が高く,さらに相対論的ジェットの形成には強い磁場エネルギーが関与している証拠を観測的に示しました。
 本成果は,ガンマ線偏光天文学という新たな学術分野を開拓し,今後,将来の初期宇宙探査や重力波天文学などで重要な役割を果たすGRBを理解することで,宇宙の本質的な理解に寄与することが期待されます。

 

<若手科学者賞>
 萌芽的な研究,独創的視点に立った研究等,高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者個人を表彰

 柴田 幹大 新学術創成研究機構ナノ生命科学研究所・准教授  

[業績名] 革新的原子間力顕微鏡による生体分子の動的構造に関する研究
 全ての生命現象はタンパク質の作用に基づいており,生命現象の本質的な理解はタンパク質の作動機構の解明に集約されます。そのため,従来の顕微鏡技術を越える高い時空間分解能で,溶液中にあるタンパク質の動的構造を可視化することは,生命科学に大きな発展をもたらします。
 本研究では,革新的原子間力顕微鏡(AFM)を駆使して光に応答する膜タンパク質のナノスケールでの構造変化を世界で初めて可視化し,さらに,脳神経科学との融合により,生きた神経細胞のナノスケールでの形態変化を可視化することに成功しました。
 本成果により,高速AFMの生命科学における有用性・将来性を実証するとともに,溶液中の界面で起こるナノスケールのあらゆる現象を可視化できる可能性を示し,今後,さまざまな研究分野で広く利用される技術になることが期待されます。

 

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