脳梗塞後の脳バリア機能低下を制御する仕組みを解明 -脳梗塞急性期治療への応用に期待-

金沢大学医薬保健研究域医学系の寳田美佳助教,堀修教授らの研究グループは,脳梗塞後の病態悪化に関わる,血液脳関門(※1)の破綻を調節する新たな仕組みを明らかにしました。

脳梗塞後の血液脳関門の機能破綻は,脳梗塞急性期に起こり,その後の炎症性細胞の集積や梗塞巣の形成,予後の悪化と深く関連しています。しかしながら,脳梗塞後の血液脳関門強度を制御する分子機構については,これまで十分に解明されていませんでした。今回,本研究グループは,アストロサイト(※2)において発現するNDRG2(※3)という遺伝子が,脳虚血後の血液脳関門破綻を制御していることを,マウス脳梗塞モデル(※4)を用いて明らかにしました。

具体的には,脳梗塞後にアストロサイトにおいてNDRG2の発現が増加することや,NDRG2を人為的に欠失させたマウスでは,脳梗塞巣の拡大,炎症性細胞の浸潤亢進が認められ,それらに先んじて血液脳関門の破綻が亢進していたことを発見(図1)。さらには,その原因分子としてMMP(※5)を同定し,同分子がアストロサイト内でNDRG2により発現が制御されることを明らかにしました。これらの事実は,アストロサイトにおいて発現するNDRG2がMMPの発現調節を介して,脳梗塞後の血液脳関門の破綻や炎症性細胞の浸潤を制御しており,脳梗塞の重篤を抑える重要な役割を担っている可能性を示唆しています(図2)。本研究成果により,治療法が限られる脳梗塞急性期における,NDRG2-MMPシグナルを標的とした新たな治療法開発につながることが期待されます。

本研究成果は,日本時間2018年2月25日午後5時に,科学誌『GLIA』のオンライン版に掲載されました。

 

図1 脳虚血後の血液脳関門の機能障害

(A)NDRG2欠損マウスでは,脳虚血後の血管内トレーサーの漏出(矢印)が亢進している。(*は脳梗塞領域を示す)
(B)NDRG2欠損マウスでは,脳虚血後の血漿(けっしょう)タンパク質の脳内蓄積が増加している。

 

図2

脳梗塞後には,MMPの発現増加により血液脳関門破綻が起こり,これが末梢炎症性細胞の浸潤を亢進させることで神経組織障害の拡大へとつながる。アストロサイトNDRG2は,MMP-3の発現制御を介して血液脳関門破綻に抑制的に働き,脳梗塞病態において保護的な作用を担っている。

 

【用語解説】
※1 血液脳関門
脳と血管の間の物質移動を制限することで脳を守るバリア機構。


※2 アストロサイト
脳や脊髄などの神経組織内に存在する支持細胞の一種。


※3 NDRG2
ストレス応答性の分化関連遺伝子。


※4 マウス脳梗塞モデル
中大脳動脈閉塞により脳の一部の血流を途絶えさせたマウスの脳卒中モデル。本研究では中大脳動脈遠位における永久閉塞モデルを使用している。


※5 MMP
マトリクスメタロプロテアーゼというタンパク質分解酵素の一群。細胞外基質の分解に働き,特にMMP-9は血液脳関門の破綻に寄与することが知られている。
 

詳しくはこちら [PDF]

GLIA

研究者情報:寳田 美佳

研究者情報:堀 修

 

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