花を作る遺伝子の起源推定に成功

理工研究域自然システム学系の小藤累美子助教は,自然科学研究機構基礎生物学研究所,総合研究大学院大学,東京工業大学,宮城大学の研究グループと共同で,花を付けない植物であるコケ植物ヒメツリガネゴケが持つ6つのMADS-box遺伝子(※1)全てを解析し,これらの遺伝子が,茎葉体(※2)の細胞分裂と伸長,精子の鞭毛の動きの2つの働きを持っていることを明らかにしました(図1)。

MADS-box遺伝子は,被子植物の花器官を作る遺伝子として知られています。被子植物は花を付けない植物から進化してきましたが,花を付けない植物ではMADS-box遺伝子がどのような働きをしているのか,それらの遺伝子がどのように進化して花を作るようになったのか,これまではっきりとした結論が得られていませんでした。

花を付けないコケ植物やシダ植物では,精子が体の外を泳いで造卵器にたどり着き内部の卵細胞と受精するため,受精には水が必要です。本研究では,茎葉体が狭い隙間に水が入り込む力(毛細管現象)によって地上の水分を運んでいること(図2)や,MADS-box遺伝子が茎葉体の細胞分裂と細胞伸長を制御することで,先端の造精器,造卵器まで水輸送を行っていることを発見しました(図1)。また,精子の鞭毛形成に必要な遺伝子を制御する働きを持っていることを見いだしました。

被子植物では,陸上植物が乾燥に適応する進化の過程で,茎葉体および精子の鞭毛が退化し消失しています。本研究を通して,進化の過程で茎葉体と精子の鞭毛で働いていたMADS-box遺伝子が不要になり,それを別の機能に再利用することで,花が進化した可能性が高いことが明らかになりました(図3)。これは,植物の発生の仕組みが,異なった系統でも類似している動物とは大きく異なっており,動物と植物では発生の仕組みの進化の仕方が異なることを示しています。

本研究成果は国際学術誌『Nature Plants』に2018年1月3日付けで掲載されました。
 

図1.コケ植物ヒメツリガネゴケのMADS-box遺伝子の働き

コケ植物ヒメツリガネゴケのMADS-box遺伝子は,精子の運動と,茎葉体の細胞分裂と伸長を制御して茎葉体先端への水輸送を行う機能を持っていた。

 

図2.ヒメツリガネゴケの毛細管現象を使った水上げ

水が葉と茎の狭い隙間に毛細管現象で入り込み,そのまま葉の付け根に溜まります。溜まる水が増えると,すぐ上の葉と茎の隙間に接触し,毛細管現象で葉の付け根に水が移動。これを繰り返すことで,水が下から上に移動していきます。
 

図3.今回の研究から推定されるMADS-box遺伝子の進化

 


【用語解説】
※1 MADS-box遺伝子
菌類のMCM1,植物のAGAMOUSとDEFICIENCE,動物のSRF遺伝子の頭文字を取って名付けられた。どの遺伝子も共通の58アミノ酸配列を持つ。遺伝子は会社のように組織立って働くが,MADS-box遺伝子は,課長や部長のように部下の遺伝子を統率し制御する働きを持ち,転写調節因子と呼ばれる。

※2 茎葉体
コケ植物セン類(庭園に植えるスギゴケなどの仲間)の茎葉を作る植物体。茎葉体の先端に精子と卵を形成し,そこで受精が起こる。


詳しくはこちら[PDF]

Nature Plants

研究者情報:小藤 累美子

 

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