分子ナノゲート核膜孔複合体分子が細胞の運命を決定する仕組みを解明

新学術創成研究機構革新的統合バイオ研究コア セルバイオノミクスユニットおよびナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)のリチャード・ウォング教授,羽澤勝治助教らの研究グループは,核膜における「分子ナノゲート(核膜複合体)」が転写因子(※1)p63の核内移行を調節する仕組みを明らかにしました。

核を覆う核膜には分子輸送をするためのナノポア(核膜孔,直径約100 ナノメートル(nm))が存在し,この核膜孔は30種類の分子から成る核膜孔複合体により形成されます(図1)。幹細胞が適切に性質を維持し,機能するためには,核膜孔複合体による分子輸送が秩序立って進められることが重要です。転写因子p63は多層上皮組織幹細胞や,これらに由来するがん細胞の自己複製・未分化維持に関わる遺伝子の発現を制御することが知られています。しかし,p63が核内へ移行するメカニズムの詳細は,今まで明らかになっていませんでした。

今回,本研究グループは,核膜孔複合体分子がp63を核内へ移行する過程を詳細に解析し,p63が核内へ移行する過程で,フェニルアラニン-グリシン(FG)-ヌクレオポリン(※2)の一つであるNUP62のFG領域が介在していることを明らかにしました。さらに,上皮分化を誘導することで知られるROCKキナーゼ(※3)によってFG領域のリン酸化を受けたNUP62は,p63を核内輸送する能力が減少することを見いだしました(図2)。これらにより,核膜孔複合体は細胞内環境に応じて変化し,効率良く細胞の運命を方向づける分子ナノゲートとして機能することが分かりました。

本研究成果は,2017年12月7日正午(英国時間)発行の欧州科学雑誌「EMBO Reports」のオンライン版に掲載されました。

 



図1. 核膜を貫き,分子輸送ルートを構築する核膜孔複合体

 

 


図2. ROCKキナーゼによるNUP62のFG領域リン酸化修飾によるp63核内移行メカニズム

増殖期にある細胞において,p63はNUP62のFG領域との相互作用を介して核内へ輸送される。しかし,上皮分化シグナルROCKキナーゼの活性化により,NUP62のFG領域のリン酸化はp63との結合性が弱くなり,p63の核内移行は遮断される。

 


【用語解説】
※1 転写因子
核内DNAへ作用し,標的遺伝子の発現を誘導する分子。


※2 フェニルアラニン-グリシン(FG)-ヌクレオポリン
アミノ酸の一種であるフェニルアラニンとグリシンの繰り返し配列を持つ核膜孔複合体構成タンパク質。


※3 ROCKキナーゼ
特定のアミノ酸配列に存在するセリンおよびスレオニンをリン酸化する分子。ROCKキナーゼの活性化は上皮細胞の分化を誘導することが知られている。

 


詳しくはこちら[PDF]

EMBO Reports

研究者情報:リチャード・ウォング

研究者情報:羽澤勝治

 

 

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