キャップ付きの分子の容器を開発
 〜イオンの出入りを自在にコントロール〜

理工研究域物質化学系の秋根茂久教授,酒田陽子助教らの研究グループは,キャップを取り替えることでイオンの出入りを望み通りのタイミングで自在にコントロールできる分子の容器の開発に成功しました。

これまで,数々の研究者によって,クラウンエーテルをはじめとするさまざまな人工ホスト分子(※1)が開発されてきました。これらは,内部にゲスト(分子やイオン)を取り込むことが可能なため,ミニチュアサイズ(分子サイズ)の人工の容器に例えることができます。私たちが日常生活で用いる容器の場合,キャップやフタを開閉することで,内容物を出し入れできるようにしたり,できないようにしたりすることができます。この機能は当たり前のように思われますが,分子サイズの容器でこれを実現するのは今まで困難だと考えられてきました。

今回,本研究グループは,このようなキャップを導入した環状ホスト分子を新たに開発し,ゲストである金属イオンの出入りをキャップによりコントロールすることに成功しました(図1)。一般的なホスト分子がイオンを取り込むのに要する時間は1/1000秒以内であり,人間の目で見ると一瞬ですが,本研究で開発した環状ホスト分子による金属イオンの取り込みは,長いもので100時間以上を要します。つまり,環状ホスト分子はキャップにより効果的にイオンの出入りを抑制することができます。さらに,2種類のイオンが存在している状態において,キャップを取り替えることで,望み通りのタイミングでイオンの出入りを開始させることにも成功しました(図2)。

以上のように,本研究ではホスト・ゲスト化学の「時間スケール」の自在なコントロールを通じて,「時間」と「機能」をリンクさせる新手法を開発しました。本研究成果は,分子機能の精巧な時間制御のための重要な指針となり,必要な場所,必要なタイミングで薬剤や機能性分子を働かせ,分子機械(※2)を駆動するための重要な基盤技術として発展することが期待されます。

本研究成果は,2017年7月12日午前10時(英国時間)発行の英国科学誌「Nature Communications」オンライン版に掲載されました。

 



図1.本研究で開発した環状ホスト分子。イオンを捕捉する部位とキャップを取り付ける部位が導入されている。

 

 


図2.キャップの取り替えによりイオンの出入りを開始できるホスト・ゲストシステム。

 


【用語解説】
※1 ホスト分子
「鍵と鍵穴」の関係に例えられるように,酵素は特定の基質(分子)のみを捕まえ特定の反応を起こす。酵素のように,サイズや形に応じて特定の分子やイオンを選択的に認識できる空間を提供できる分子をホスト,そこに取り込まれる分子やイオンをゲストと呼ぶ。また,分子・イオンを捕まえるホスト分子とさまざまなゲストとの相互作用を研究対象とする分野をホスト・ゲスト化学(分子認識化学)と呼ぶ。天然のホスト分子の代表例としてシクロデキストリン,人工的に合成されたホスト分子の代表例としてクラウンエーテル,カリックスアレーン,ピラーアレーンなどが挙げられる。


※2 分子機械
分子マシンとも呼ばれ,ナノスケール(10億分の1メートル)で制御された,機械的動きを起こす分子あるいは分子複合体。光,熱,酸・塩基,酸化還元などの外部刺激によって分子の構造が変化する。代表的なものに,ロタキサンやカテナンといった噛み合った構造の分子を使った分子モーターや分子シャトルなどが挙げられる。2016年に「分子マシンの設計と合成」の先駆的な研究を行ったジャン=ピエール・ソバージュ,フレーザー・ストッダート,ベルナルド・フェリンガの三氏にノーベル化学賞が授与された。

 


詳しくはこちら[PDF]

Nature Communications

研究者情報:秋根茂久

研究者情報:酒田陽子

 

 

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