世界初!反転層型ダイヤMOSFET の動作実証に成功

掲載日:2016-8-23
研究

理工研究域電子情報学系の松本翼助教,徳田規夫准教授らの研究チームが,国立研究開発法人産業技術総合研究所先進パワーエレクトロニクス研究センターダイヤモンドデバイス研究チームの山崎聡招へい研究員,加藤宙光主任研究員,株式会社デンソーの小山和博担当課長らとの共同研究により,世界で初めてダイヤモンド半導体(※1)を用いた反転層チャネルMOSFET(※2)を作製し,その動作実証に成功しました。

省エネルギー・低炭素社会の実現のためのキーテクノロジーとして次世代パワーデバイスの開発が求められています。パワーデバイスとは,電力を制御(①直流⇔交流,②電圧変換,③周波数変換)するデバイスであり,半導体材料を用いて作られているもの。現在用いられているパワーデバイスは,ほとんどシリコン(Si)製であり,ダイヤモンドは,パワーデバイス材料の中で最も高い絶縁破壊電界とキャリア移動度,そして熱伝導率を有することから,究極のパワーデバイス材料として期待されています。しかし,高品質な酸化膜およびダイヤモンド半導体界面構造の形成が困難であるため,パワーデバイスにおいて重要なノーマリーオフ特性(※3)を有する反転層チャネルダイヤモンドMOSFET は実現していませんでした。

今回,研究グループは独自の手法で母体となるn型ダイヤモンド半導体層および酸化膜とダイヤモンド半導体層界面の高品質化に成功しました。それらを用いた反転層チャネルダイヤモンドMOSFET(図)を作製し,その動作実証に成功しました。

将来,ダイヤモンドパワーデバイスが自動車や新幹線,飛行機,ロボット,人工衛星,ロケット,送配電システムなどに導入されることで,ダイヤモンドパワーエレクトロニクスの道を切り開き,省エネ・低炭素社会への貢献が期待されます。

図. 今回作製した反転層チャネルダイヤモンドMOSFET(左上)とその中の一素子を光学顕微鏡で拡大した画像(右上),赤い破線部の断面模式図(左下:ゲート電圧が0 V時,右下:ゲート電圧が負の時)

図. 今回作製した反転層チャネルダイヤモンドMOSFET(左上)とその中の一素子を光学顕微鏡で拡大した画像(右上),赤い破線部の断面模式図(左下:ゲート電圧が0 V時,右下:ゲート電圧が負の時)

 

※1 ダイヤモンド半導体
ダイヤモンド半導体は炭素のみからなる半導体であり,Si半導体と同じ単元素半導体に属する。SiC半導体やGaN半導体などの化合物半導体と比べ,単元素半導体はSi半導体のように不純物や格子欠陥を排除しやすいため,ダイヤモンド半導体もSi半導体同様に究極の高品質化が期待される。

※2 反転層チャネルMOSFET
MOSFETはMetal Oxide Semiconductor Field Effect Transistorの略称で,金属と酸化膜,半導体からなる界面を有する電界効果トランジスタのことである。このMOSFETのゲートに,母体である半導体と同じ極性のゲート電圧をかけると,MOS界面に少数キャリアが蓄積し,母体と反転した極性のチャネル(低抵抗層)が形成される。このチャネルを反転層チャネルと呼ぶ。現在普及しているトランジスタの多くが反転層チャネルMOSFETである。これは,反転層チャネルMOSFETが基本的にノーマリーオフ特性を有しており,高い信頼性を有しているためである。

※3 ノーマリーオフ特性
システムとしては動作中であっても,真に動作すべき構成要素以外の電源を積極的に遮断することで,誤動作を防ぎ,消費電力を最小限に抑える特性のことである。ノーマリーオフ特性は,パワーデバイスにおいて最も重要で最低限必要とされる特性である。パワーデバイスは自動車や新幹線,飛行機といった大電力を利用した輸送機器に広く用いられている。このため,安全性は最も重視され,壊れたときに出力が0となるノーマリーオフ特性はパワーデバイスにとって最低限必要な特性とされている。また,待機消費電力の観点からも,OFF状態でリーク電流がほとんどないノーマリーオフ特性が有効である。

 

詳しくはこちら[PDF]

Scientific Reports

研究者情報:徳田 規夫
 研究者情報:松本 翼

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