世界最速の原子間力顕微鏡を用いてアルツハイマー病原因物質の構造変化を確認

掲載日:2016-5-10
研究

医薬保健研究域医学系脳老化・神経病態学(神経内科学) 山田正仁教授,理工研究域バイオAFM先端研究センター 中山隆宏助教らの研究チームが,UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)と共同で,世界最速の原子間力顕微鏡(※1)を用いて,アルツハイマー病の脳に蓄積するアミロイドβタンパク質(Aβ)(※2)が凝集(※3)する過程をビデオ撮影することに成功しました。

アルツハイマー病は,脳内にAβがたまることで発症します。従来はタンパク質が脳で集まり始めた時点で形状が定められ,その後は同じ構造が繰り返し作られると考えられていました。

今回の研究では本学が開発した,分子の動きや構造を精密に撮影できる高速原子間力顕微鏡を使用し,Aβが溶液内で集まる過程の動画撮影に成功。その結果,Aβの繊維構造として,すでに知られている「らせん型」と「直線型」に加え,それら2つの型を併せ持つ「混在型」が存在すること,混在型は,らせん型→直線型→らせん型のように繊維が変換されながら形成されることを発見しました。さらに,溶液の成分を変えるとAβの各型の出現割合が変わることから,Aβの線維構造は周囲の環境によって変化することも明らかにしました。

脳内のAβの線維構造を変化させることができれば,アルツハイマー病の発症や進行を制御できる可能性もあり,今回の研究成果が今後の治療研究へ活用されることが期待されます。

本研究成果は,米国東部標準時間2016年5月9日午後3時(日本時間5月10日午前4時)発行の米国科学アカデミー紀要Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of Americaのオンライン版に掲載されました。


記者説明会

研究内容について説明する中山助教(左)と山田教授(右)

 

混在型1

図1:らせん状と直線状の両方の構造をもつAβの線維

(※1)【原子間力顕微鏡とは】
試料と探針の原子間にはたらく力を検出して画像を得る顕微鏡

(※2)【アミロイドβタンパク質(Aβ)とは】
アルツハイマー病の脳には,老人斑という特徴的な構造がみられ,その主成分がAβです(図2)。Aβが凝集し蓄積していく過程は,アルツハイマー病の脳の病変の形成において中心的な役割を果たしており,その構造の違いが病気の進行の違いなどに関与していると考えられています。

リリース図

図2:アルツハイマー病脳の老人斑(矢印)にAβが凝集した状態(Aβ免疫染色)

(※3)【タンパク質の凝集とは】
タンパク質同士が多数寄り集まる現象。アルツハイマー病などの脳に蓄積するタンパク質の凝集体には毒性があり,凝集体の構造の違いが病気の発症や特徴に関与していることが明らかになってきています。

 

詳しくはこちら[PDF]

Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America

研究者情報:山田 正仁
 研究者情報:中山 隆宏

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