金沢大学理工研究域フロンティア工学系の西川裕一准教授、附属病院整形外科の中瀬順介講師、附属病院リハビリテーション部の仙石拓也理学療法士、医薬保健研究域医学系の絹谷清剛教授の共同研究グループは、干渉低周波という独自の電気刺激方法を用いて、深層筋である腹横筋や腸腰筋を刺激することに成功しました。
本研究では、若年男性を対象に、干渉低周波電気刺激が深層筋に与える影響を検証し、その効果を PET-CT(※1)により可視化しました。
筋電気刺激(Electrical Muscle Stimulation、EMS)は、電気刺激によって筋肉を収縮させる技術の 1 つで、筋力の維持・向上を目的としてリハビリテーション領域などで広く用いられています。しかし、従来の一般的な EMS は、表層の筋肉への刺激が中心であり、体幹や骨盤周囲の深層筋(腹横筋や腸腰筋)への十分な刺激が課題とされてきました。
本研究では、400Hz 帯の干渉電流による EMS を用い、筋肉の糖代謝活性を評価するPET-CT 画像を取得し、筋活動の評価を行いました。その結果、体幹・骨盤・下肢における深層筋群を含む複数の筋肉で有意な糖代謝の上昇が確認され、深部筋への有効な刺激が初めて科学的に実証されました。
これらの知見は、加齢や疾病により深部筋の活動が低下した高齢者・運動困難者への新たな介入法として、転倒予防や体幹機能改善などへの応用が期待されます。
本研究成果は、2025 年 6 月 12 日 22 時(ロンドン時間)に国際学術誌『European Journal of Applied Physiology』のオンライン版に掲載されました。
図 :PET-CT 画像(上段:干渉低周波群、下段:対照群)
【用語解説】
※1:PET-CT
体内の代謝の様子(エネルギーの使われ方)を画像として「見える化」できる画像検査手法のこと。
ブドウ糖の類似体である「FDG(フルオロデオキシグルコース)」という微量の放射性物質を体内に注射すると、活動している筋肉や臓器がそれを多く取り込みます。PETでは、この FDG の分布を画像化することで、どの部分の活動が活発かを調べることができます。さらに CT を組み合わせることで、体の構造と代謝の情報を同時に確認することが可能です。
ジャーナル名:European Journal of Applied Physiology
研究者情報:西川 裕一