火星が赤い理由に“塩水”が関係? 鉄酸化物の変質挙動に新たな知見

掲載日:2025-6-19
研究

 金沢大学自然科学研究科博士後期課程 1 年の深谷創、環日本海域環境研究センターの福士圭介教授、東京大学大学院理学系研究科の高橋嘉夫教授らの共同研究グループは、太古の火星の水環境を模擬した室内実験を通じて、かつて存在していた水の塩分が火星表面の色に影響を及ぼしていた可能性を明らかにしました。

 火星表面には、水の作用で生成された鉄の酸化物であるフェリハイドライト(※1)とヘマタイト(※2)が広く分布しており、これらが火星を赤く見せている主な原因であることが確認されています(図 1)。フェリハイドライトは水中から析出して生成され、水の存在下で時間の経過によりヘマタイトへと変化することが知られています。

 地球では、フェリハイドライトは赤色のヘマタイトだけでなく、黄色のゲーサイト(※3)へと変質することも一般的です。しかし、火星ではゲーサイトは限られた場所でしか見つかっておらず、地球では普遍的に見られるこの鉱物が、なぜ火星ではほとんど存在していないのかは、これまで分かっていませんでした。

 本研究では、室内実験によりさまざまな塩濃度および pH 条件でのフェリハイドライトの変質挙動を調べました。その結果、太古の火星に存在したと考えられる高塩分の水環境では、水の pH にかかわらず、フェリハイドライトが主にヘマタイトへと変質することが明らかになりました。特に、火星に大規模な液体の水が存在した最終期に想定される酸性条件下では、塩分の影響でゲーサイトの生成が大きく抑制されることが分かりました。

 火星が赤い惑星であるという事実は、最後の湿潤期において全球的に水の塩分が高かった可能性を示唆しています。水の塩分は、周囲の環境や気候条件と密接に関係しており、これらの知見は、火星における古環境および古気候の進化を解明するうえで重要な手がかりとなることが期待されます。

 本研究成果は、2025 年 6 月 4 日に米国化学会が発行する学術誌『ACS Earth and SpaceChemistry』のオンライン版に掲載されました。

 

 

 

図1:探査衛星が撮影した火星と、フェリハイドライト、ヘマタイト、ゲーサイトの色の比較。

 

 

 

【用語解説】

※1:フェリハイドライト
 結晶性に乏しい水酸化鉄鉱物の一種。水の存在する環境で鉄が酸化することによって生成されることが多く、地球では、温泉の沈殿物や鉄バクテリアの活動によっても形成される。最近の研究により、火星にも広く分布していることが確認されている。

※2:ヘマタイト
 結晶性の酸化鉄鉱物の一種。強い赤色から銀灰色を示し、和名では「赤鉄鉱」と呼ばれる。水が存在する環境において、フェリハイドライトの変質によって形成されることが多く、フェリハイドライトと同様に火星にも広く分布していることが確認されている。火星表面におけるヘマタイトの存在は、過去の火星に液体の水が存在していた可能性を示す重要な証拠とされている。

※3:ゲーサイト
 結晶性の水酸化鉄鉱物の一種。黄色から黄褐色を示し、和名では「針鉄鉱」と呼ばれる。ヘマタイトと同様に、水のある環境でフェリハイドライトの変質によって形成されることが多い。地球では、土壌や鉄鉱床、酸性鉱山廃水などによく見られる。

 

 

プレスリリースはこちら

ジャーナル名:ACS Earth and Space Chemistry

研究者情報:福士 圭介

 

 

 

FacebookPAGE TOP