腫瘍内の血管を破壊する新しいがん治療法の開発に成功

掲載日:2025-7-11
研究

 金沢大学医薬保健研究域薬学系の中村孝司教授、北海道大学大学院薬学研究院の原島秀吉教授、北海道大学大学院歯学研究院の樋田京子教授の共同研究グループは、ナノ粒子を用いて腫瘍内の血管を破壊する新しいがん治療法の開発に成功しました。

 がん治療法のなかでも、薬物療法は、近年目覚ましい発展を遂げ、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤など、新しいタイプの医薬品が使用されるようになりました。しかしながら、多くの薬物療法において薬剤耐性が問題となっており、がんの克服には至っていません。そのような中、腫瘍組織の血管、すなわち腫瘍血管を破壊することで、がん細胞への栄養供給を断つ新しいタイプの治療法の開発が進んでいます。現在開発が進んでいるものは低分子化合物を用いているため、腫瘍血管への選択性が乏しく、薬効や副作用の面で課題がありました。そのため、新しい薬物モダリティや作用機序の腫瘍血管破壊剤の開発が望まれていました。

 本研究グループは、腫瘍血管を標的とする脂質ナノ粒子(※1)と自然免疫を活性化する脂質ナノ粒子を併用することで、腫瘍血管を選択的に破壊できることを見出しました。本併用療法による腫瘍血管破壊は、腫瘍組織におけるがん細胞の急速な細胞死(アポトーシス)を引き起こし、強力ながん治療効果を示しました。その治療効果は、既存の血管破壊剤や血管新生阻害剤を大きく凌駕していました。また、免疫チェックポイント阻害剤に耐性を示す腫瘍モデルや、ヒト膵がん細胞を含む複数のヒト腫瘍モデルに対しても腫瘍血管の破壊を伴う顕著な治療効果を示しました。さらには、本併用療法が、I 型インターフェロンのシグナル経路を介した新しい作用メカニズムであることが示唆されています。これらの知見は将来、新しいがん治療法の開発に活用されることが期待されます。

 本研究成果は、2025 年 3 月 27 日午後 10 時(日本時間)に国際学術誌『Biomaterials』のオンライン版に掲載されました。

 

 

図1:腫瘍血管を標的とする LNP と自然免疫を活性化する LNP の併用による腫瘍血管破壊

 

 

図 2:併用療法による腫瘍血管の破壊

 

 

【用語解説】

※1:脂質ナノ粒子
 脂質分子で作られるナノメートルサイズ(1 ナノメートル=10 億分の 1 メートル)の粒子のこと。メッセンジャーRNA などの核酸を運ぶための薬物送達システムとして活用されている。

 

 

プレスリリースはこちら

ジャーナル名:Biomaterials

研究者情報:中村 孝司

 

 

 

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