指定難病 間質性膀胱炎(ハンナ型)に対する核酸アプタマーを用いた新規治療法を開発
――インターフェロン-γ抑制による治療効果を疾患モデルで証明――

掲載日:2023-12-28
研究

 

 

 金沢大学医薬保健研究域医学系分子細胞病理学の前田大地教授, 東京大学医学部附属病院泌尿器科・男性科の秋山佳之講師,久米春喜教授,杏林大学医学部間質性膀胱炎医学講座の本間之夫特任教授,アイオワ大学泌尿器科の Luo Yi 教授,タグシクス・バイオ株式会社の堀美幸創薬研究開発部長らによる研究グループは,膀胱の粘膜に慢性炎症・びらんが生じ,膀胱痛や頻尿・尿意切迫といった症状を来す,原因不明の難病である間質性膀胱炎(ハンナ型)(※1)において,患者臨床サンプルを用いた包括的なゲノム病理解析を実施しました。その結果,同疾患の炎症特性として Th1/17 型免疫応答(※2)の亢進を突き止めるとともに,治療標的としてインターフェロン-γ(IFN-γ)(※3)を同定しました。

 さらに,タグシクス・バイオ株式会社が有する独自の人工核酸技術を用いて IFN-γ に高親和性・特異性を有する核酸アプタマー(※4)(抗マウス IFN-γアプタマー)を創製し,間質性膀胱炎(ハンナ型)疾患モデルマウスにおいて,膀胱内投与による高い治療効果を実証しました。

 本研究成果は抗 IFN-γ アプタマーによる間質性膀胱炎(ハンナ型)の新規治療法開発につながることが期待されます。

 本研究成果は,2023年11月9日に国際学術誌『iScience』の本掲載(2023 年 11 月 17 日付)に先立ち,オンラインにて公開されました。

 

【本研究発表のポイント】

 ◆ 原因不明の膀胱の慢性炎症性疾患である間質性膀胱炎(ハンナ型)に対する包括的ゲノム病理解析を実施し,Th1/17 型免疫反応の亢進が炎症特性であることを明らかにしました。

 ◆ 間質性膀胱炎(ハンナ型)の治療標的として IFN-γを同定し,独自の人工核酸技術により,IFN-γに高親和性・特異性を有する核酸(DNA)アプタマーを創製し,間質性膀胱炎(ハンナ型)モデル動物において高い治療効果が認められることを実証しました。

 ◆ 本研究成果は,根治治療の無い指定難病である間質性膀胱炎(ハンナ型)に対する,核酸医薬を用いた新規治療法開発に大きく貢献することが期待されます。

 

 


図:抗 IFN-γDNA アプタマーの間質性膀胱炎(ハンナ型)モデル動物に対する治療効果

 

 

【用語解説】

※1:間質性膀胱炎(ハンナ型)
 中年以降の女性に好発し,膀胱(下腹部)や尿道の強い痛みと,頻尿や尿意切迫などの排尿症状を来す,膀胱の慢性炎症性疾患。免疫の異常が発症に関連していると考えられているが,その詳細は明らかではなく,根治療法も確立されていない。特に,症状の強い重症型は国の指定難病となっており,進行すると膀胱が萎縮して尿が溜められなくなり,膀胱摘出に至ることもある。

※2:Th1/17 型免疫応答
  T 細胞は,Th1,Th2,Th9,Th17,Treg,Tfh 細胞などに分類され,これらのサブセットのバランス異常が種々の病態に関与している。Th1 細胞,Th2 細胞はともにヘルパーT 細胞であり,Th1は細胞性免疫,Th2 は液性免疫を担う。Th1 細胞はウイルスや一部の細菌などの細胞内病原体,あるいはがん細胞の排除に働く際に IFN-γ を産生するが,Th1 細胞の働きが過剰になると自己免疫性疾患が引き起こされる。Th17 細胞は,Th1 および Th2 系統とは発生学的に異なる T ヘルパー細胞のサブセットであり,炎症誘発性サイトカインであるインターロイキン-17(IL-17)を産生する。

※3:インターフェロン-γ(IFN-γ)
 主に T 細胞や NK 細胞から分泌されるサイトカインで,白血球による炎症を強化する作用を持つ。また MHC 分子の発現を増加させる働き,マクロファージや樹状細胞を刺激して細菌を貪食殺菌させる作用も持つ。自己免疫性疾患やがんに対する免疫応答に重要なサイトカインであると考えられている。

※4:核酸アプタマー
 タンパク質など特定の分子に対して結合能を示す一本鎖核酸(一本鎖 DNA/RNA)。疾患関連の標的タンパク質などに結合し,その機能を阻害する一本鎖核酸をアプタマー医薬と呼ぶ。適応疾患次第では,抗体医薬より優れた機能を発揮する新規医薬品候補として近年注目されている。

 

 

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ジャーナル名:iScience

研究者情報:前田 大地

 

 

 

 

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