左手型分子を右手型に変える: 変換の速さを 1000 倍変えることに成功!

掲載日:2023-11-16
研究

 

 

 金沢大学ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)の秋根茂久教授,アシフ・イクバル特任助教,分子科学研究所の江原正博教授,ザオ・ペイ特任助教の共同研究グループは,分子の構造が左手型から右手型になる変換を加速したり減速したりすることに成功しました。

 人間の右手と左手の関係のように右手型・左手型の区別がある分子はキラル分子(※1)と呼ばれ,それぞれに特徴的な性質を示します。特に,右手型か左手型かで生体への作用が異なるため,キラル分子の右手型・左手型のコントロールは医薬品や材料の開発において重要です。あるときは右手型,別のときは左手型となるような分子は,状況によって性質が逆になるため,それに応じて働きが変わるスイッチング分子として注目されています。このような右手型と左手型の間の変換をスイッチとして使うためには,必要なときにだけ変換を起こし,必要のないときには変換を遅くする(止める)というように,自在に速さを変えることができるのが理想的です。

 本研究では,イオンを取り込むことができる「空孔」を持つ三重らせん型の分子を新たに開発しました。金属イオンを加えると,らせん構造の左手型から右手型への変換が起こりますが,その変換の速さ(半減期 ※2)を,加える金属イオンの大きさによって最短11 秒,最長 3 時間のように,1000 倍変えることに成功しました。

 これらの知見は将来,分子レベルで書き込み・消去が可能な情報記録素材などに活用されることが期待されます。

 本研究成果は,2023 年 11 月 3 日(米国東部時間)に国際科学誌『Science Advances』に掲載されました。

 

 

 

 


図:金属イオンが内部に入ることで左手型から右手型に変わるカゴ型分子。
金属イオンの種類によって変換の速さが最大1000倍異なる(カリウムイオン:11秒,セシウムイオン:11100秒=約3時間)。

 

 

【用語解説】

※1:キラル分子
 右手と左手のように,鏡像の関係あって互いに重ね合わせることのできない分子。キラル分子同士の相互作用は,「左手 vs. 左手用グローブ」と「右手 vs. 左手用グローブ」の違いに見られるように,同じにはならない。

※2:半減期
 濃度が減少していく反応において,濃度が半分になるまでの時間。指数関数的な減少(一次反応)の場合,半減期の 4~5 倍の時間が過ぎると出発物は最初の数%程度まで減少するので,事実上反応が終わったとみなすことができる。

 

 

プレスリリースはこちら

ジャーナル名:Science Advances

研究者情報:秋根 茂久

 

 

 

 

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